当方でチェーン展開をしておる喫茶店をご紹介するのは初めて。
初めてなのに、「もう無い」店舗をご紹介することになって、大変申し訳ないことです。
しかし、「もう無い喫茶店」なのにも関わらず、確かにそこにはもう無いのだけれど、他店舗には行ける。それがチェーン店のアドバンテージ。
金澤ちとせ珈琲
は、金沢に残る百貨店、香林坊大和を含む商業施設『アトリオ』地下一階に長く店舗を構えている。
確証はないのだが、40年以上は営業されているのではないだろうか。
齢50を迎えてしまった私が小学生の頃に、すでにあったと記憶する。
小学高学年〜中学生にかけて、父に連れられて毎週日曜日に映画を観に片町へ出ていた際に、こちらでお茶をしていたはずだ。
当時は、タバコも吸えた気がする。
ヘビースモーカーで、悶え苦しんで死んだ父親が、吸えない喫茶店に入るはずがない。
結果、喫煙遺伝子は継承され、社会の害悪としての喫煙者がまた産み落とされたのである。父は罪人で、私は被害者の側面をもつまた一人の罪人である。
吸う人間は、吸わない人間から一人一殺の所業で成敗されるべきである。
吸うけど。
正面から眺めると、庇の上部に看板が嵌められていただろうレールが残っており、看板を照らしていただろうレンブラントライトも残されている。
サイドに回り込むと、ようやくこの場所が喫茶店であった名残りを見つけることができる。
「自家焙煎」
ちとせ珈琲は、「毎日焙煎を行」うこだわりの店。
「自家焙煎」
ではなく、
「実家パイセン」
であれば、先輩の生家であろう。
ただ、先輩の実家が喫茶店だったりすると、ちょっと厄介で「自家焙煎する実家パイセン」というダブルミーニングが成立しそうで、すんでのところで成立しないことになったりする。
「もう無い喫茶店」を巡る醍醐味は、こうやってかろうじて残された遺物を見つけることにある。
というか、喫茶遺物がないと何の店だったかも判別としないのである。
加えて、画面下部の「駐車場のご案内」にある文言。
「となりの「ローソン」さんには駐車しないで下さい。」
という「お願い」も、往時を偲ばせるに充分。
「停めた」「停めんな」「停めたい」「停めたんですか!」
みたいな罵声や嬌声が飛び交っていたのだろうか。
そして、「となりのローソンさん」は元気に営業中である。
盛者必衰。
こちらの「金澤ちとせ珈琲 弥生店」は、金沢市内でも有数の交通量を誇る南大通りに面しているため、利用しやすい駐車場が店舗脇になかったことは、営業上大きなマイナス要素だったろうと想像する。
金澤ちとせ珈琲Instagramによれば、「金澤ちとせ珈琲 弥生店」2021年9月14日に閉店されたようだ。
googleストリートビュー2014年11月分が代表的だが、通り沿いに植えられた街路樹が思いっきし店舗の看板を覆い隠してしまうありさまで、喫茶店の存在を周知できなかったのではないかとも邪推する。
どっこい、金澤ちとせ珈琲さん自体は、先述の
香林坊アトリオ店
に加えて、
長坂台店
石川県立音楽堂カフェコンチェルト
と店舗を展開。
絶賛営業中。
弥生店でも培われたであろう「自家焙煎」遺伝子は脈々と他店舗でも受け継がれているだろう。
私が唯一受け継いでいる喫煙遺伝子とは比べるべくもない。
これもうろ覚えで申し訳ないのだが、過日北陸中日新聞を読んでいたら、
金澤ちとせ珈琲長坂台店が、
地震による被災で能登から移って来られた方々と、地域住民の懇親の場となっている、
との記事を読んだ。
長坂台店は、弥生店からの移転という形になっているようで、現在の長坂台店が地域に開く店舗として息づいているように、きっと弥生店も近隣住民に愛された喫茶店だったはずだ。
「金澤ちとせ珈琲 弥生店」
は、もう無い。
多分、吸えないんだと思うんですけど、
近々、「金澤ちとせ珈琲」に足を運びたい。