喉の渇きを癒したいとき、足の疲労が臨海に達したとき、しのつく雨をしのぎたいとき、買ったばかりの文庫本を開きたいとき、そして、紫煙をくゆらすひと時を過ごしたいとき。 路傍に佇む喫茶店の門をくぐる。 なるべくならば、煙草の似合う、そんな店がいい。
<本日のサ店>
こま
ここより下は、当ブログ執筆者の身辺雑記をふんだんに含んだ、取るに足らないとしか言いようのない雑文雑記ですので、お店の基本データのみを知りたい方は、上記目次より各項目をクリックし、あなたが必要とする情報を摂取したのち、早々に離脱することをお勧めします。バイバイ!
今回の喫茶店があるのは武蔵ヶ辻。
近隣の金沢スカイビルの一階部には、大西洋服店という渋い店舗が入っている。
40年前には、「いつかこんな店でスーツをオーダーするような未来が私にも待っているのだろうか?」と夢想したものだ。
が、結果、スーツに袖を通すのは年一回みたいな生き方を選んでいるので、いまだに縁が無い。入居している金沢スカイビル自体が1973年に誕生しており、大西洋服店もそれに近い歴史を刻んでいると思われる。
過剰な自意識と過度な被害者意識を醸成しながらも、たいていのお店には躊躇なくズカっていけるようになったが、テーラーというのか、こういった紳士服店へ入るのは躊躇せざるを得ない。大体、何買ったらいいのよ。
20年以上前、東京に居た頃、三國連太郎主演の『テーラー』という芝居を観て、この大西洋服店の店主も三國のような威厳をたたえた人なのかと想像した。
こう書いてから、遠隔記憶を補強するために検索をかけたら、「三國連太郎主演の『テーラー』という芝居」なぞというのは存在せず、上演されていたのは、三國連太郎が老齢で狂った役者を演じた『ドレッサー』という芝居であった。
ドレッサー ロナルド・ハーウッド=作 劇書房 1988年 [古書]
ことほどさように、私の記憶は遠隔および近似記憶においてもめっきり信用ならない。
そんな輩が綴るブログなんて、信用ならない。
私なら読まない。
という訳で、読んではいけない「なるべく吸える喫茶店」
今回は、件の大西洋服店から金沢駅方面に歩を進めること、すぐさま。
横断歩道を歩行横断すると到着です。
店内に入ると、正面にカウンター。
右手、大ぶりの窓に囲まれたコーナーにテーブル席。
カウンター内のマダムが笑顔で迎えてくれ、カウンター奥に陣取る。
「こんにちは。いいですか?」
「はい、どうぞー」
「何にされます?ホット?」
「冷たいのん何あります?」
「アイスコーヒー出来ますよ」
「じゃあ、お願いします」
メニューは特段無いようだが、定番のものはあるそうだ。
「タバコ大丈夫ですか?」
「どうぞどうぞ」
「こま」は
喫煙可
灰皿の側面に刻まれた キャビン85 の文字
かつてJTの主力銘柄であったキャビン。
その名は、1985年発売に由来するのではなく、85ミリサイズのことだそうで、キャビン85の発売自体は1980年である。という「2021年開催のTOKYO2020」みたいなことになっている。
「私は吸わないの」
「吸わないのに、目の前で吸われると嫌でしょう?」
「いや、もう40年煙の中にいますから、平気。どんどん吸ってください。お客さんでもねぇ、家で吸うよりも出先で吸いたいっていう人多いです」
遠慮なくカウンターで火を点けさせてもらう。
この、アイスドリンク提供時に裸のストローを乗っけるスタイルは、「伝言板」と同じ。
ストローの袋を蛇腹状に外し、水を垂らして、ムクムク動かす「ストローいもむし」のさまを幼な子に見せて喝采を浴びたい向き以外は、こうしてあらかじめネイキッドストローを出してもらえる方が、ユーザビリティが高いのかも。
「すぐそこの紳士服屋さんも永いでしょ?こちらも、永くやられてるんですか?」
「嫁いだ先がこのビルの持ち主だったの。お舅さんが『せっかくだから、ここで何かやり』って、それで始めたんです」
「じゃあ、お住まいもここですか?」
「そう、二階に住んでるから通勤が楽」
「もう何年くらいですか?」
「30半ばで始めたから、指折り数えて40506070… 歳がバレちゃうね(笑)」
他のお客さんがはけたタイミングで、写真撮影の許可をお願いすると、
「まあ、こんな汚いところだけど。好きなだけ撮って」




「こま」を訪れた理由のひとつは、石川県立図書館で金沢市の喫茶店関連書籍を探している時にみつけた
「かなざわ喫茶村ニュース」
という瓦版の中、
喫茶店開業者向けの「北陸喫茶珈琲学院」という喫茶士養成専門学校の卒業者一覧に、
「こま(金沢市)」
の文字列を見とめたからであった。
「そんなコーヒーの学校とか行きましたか?」
「あら、そう?行ったんかなぁ。書いてあるんなら行ったんやわねぇ。最初は苦労したけど、もう長いから。はじめたての苦労は忘れたわねぇ」
とのこと。
「かなざわ喫茶村」は、かつて広坂地区にあった三階建ての建物で、喫茶店・SPレコード資料館・演劇やコンサートに使える蒐古館ホールを有する「珈琲の総合センター」とされる。鞍 信一という方が経営されていたそうである。
北陸喫茶珈琲学院は、
スナック専科・喫茶ソフト調理専科・喫茶店経営と珈琲専科の全てを2ヶ月で履修するスケジュールだったようで、「こま」のマダムの記憶がないのも無理はない。
20年前の芝居における三國連太郎の役柄も覚えていない私なら、何をか言わんやである。
北陸喫茶珈琲学院の卒業者一覧の中には、
「伝言板」
「さんさろ」
の記載もある。
ということは、ネイキッドストロースタイルは、この珈琲学院で広められたものかも知れない。「伝言板」は、資料を目にする前に訪問してしまったので、今後「もうすぐ再開する」「さんさろ」のマダムにお話を伺うのが楽しみ。
かなざわ喫茶村の瓦版は、いくつかコピーしてきてあるので、「こま」のマダムに再訪時お見せすることを約束。
「あら、ありがとう。わざわざコピーしてもらってねぇ。覚えてないんだけど」
「そこのテーブル席は暗くなってから、使うと雰囲気良さそうですね」
「夜はね。駅前からは離れてるから、随分と静かなんよ。また、夜でもいらしてくださいね」
「このあたりに住まわれてると、便利でしょう?」
「そう、どこ行くにもね、便利ですよ」
「近江町市場とかも?」
「近江町はね、いけないの。その時間は営業してるから。こんな近くにいてもいても行った事ない。ずーーっとココに居るから」
いつもそこにある喫茶店。
そんな安心感は、歩いて数分の「金沢市民の台所・近江町市場」に足を踏み入れたことがないマダムの我慢と引き換えなのだ。
ありがてぇ。
また、コピー持って来ます。
ごちそうさまでした。
google MAP
所在地
金沢市武蔵町16ー40
営業時間
8:30〜18:00
火曜のみ16:00まで
定休日
日 祝
席数
カウンター x 7
テーブル x 2
電源
なし
Wi-Fi
なし
SNS
なし
店内BGM
トイレ
和式
喫煙の可否
喫煙可