忍者寺
という愛称を持つ妙立寺たる場所があり、金沢観光の十五番手あたりには位置している。私もガキの頃に、「忍者」という響きに誘われて訪れたことがあるのだが、
全然、忍者感がなくてガッカリした思い出がある。
妙立寺のウェブサイトには定番のメニュー「よくある質問」の項があり、
「忍者屋敷ではないのですか」
の設問に公式はこう答えている。
日蓮宗のお寺で、忍者屋敷ではありません。忍者屋敷のような作りのお寺であることから「忍者寺」と呼ばれています。歴史を踏まえての作りをご案内しており、忍者とは一切関係ありません。忍者体験をしたりショーをしたりするような施設ではありません。
出典:妙立寺ホームページ
つまり、忍たまハットリ赤影テイストは無いのであり、子どもにとっては普通のお寺。ファンタスティックではなかった訳だ。
しかし、都市伝説として流布されている
「忍者寺から伸びる地下通路は、金沢城までつながっている」
というヤツには浪漫がある。
ファンタスティックである。
妙立寺が建つ旧鶴来街道には、寺院が林立しており、商店もいくらか見られる。
今回発見した「もう無い喫茶店」も、そのひとつであったと思われる。
土壁が崩壊しながらも、佇まいは凛々しさを保っている。
民芸品を扱うようなお土産店とも思えるが、窓ガラスにはこの場所が喫茶店であったであろうことを示す文字列が。
COFFEE
店内を覗き見させてもらうと、カウンターがあったらしき痕跡もある。
いや、もしかすると座敷でコーヒーを味わうタイプの喫茶店だったのかも知れない。
既にして、2014年11月の段階で閉業されているようで、店名を偲ばせる片鱗も当時から見えない。
ただ、10年経過してもそれほど土壁の崩壊が進捗している風でもない。
子どもの頃から、おっさんみたいな面構えをしている坊主もいるもんだ。
和風の建物の方が、フケっぷりが際立たない。
右手の陳列ケースに残されているのは、姫だるまの微笑みだけ。
この姫だるま以外はスッカラカンである。
伽藍堂に、だるまのアルカイックスマイルだけが残されている。
最近になってテレビ番組で、「忍者寺の隠し通路」が調査されたようである。
番組では隠し通路につながっていると伝えられる井戸の底まで調査したようだが、金沢城に向かう為の横穴が見つからなかったそうで、
しかし、専門家によると井戸の側面の土が崩落し、底に溜まって、横穴を覆い隠してしまっている可能性も否定できないそうで。
ただ今回は、道具がないから
「伝説の隠し通路を見つけるのは、次回に持ち越しとなった」
そうである。
いわゆる「プロレスだろ」感がある結末。「次回」なんてきっとないだろう。
幽霊の正体見たり枯れ尾花
伝説は伝説のままにしておくのが、大人の判断。
かつて糸井重里は徳川埋蔵金について
「あるとしかいえない」
と結論付けた。
忍者寺から金沢城をつなぐ隠し通路
も、「あるとしかいえない」と言っておけば良いだろう。
そして、店先の姫だるまとガラスに刻まれたCOFFEEの文字だけが、その面影を伝える「もう無い喫茶店」のことも、この場所に
あったとしかいえない。