金沢 なるべく吸える喫茶店

吸えたら良いけれど吸えない時もあるから飲めたら満足です

もう無い喫茶店「らんぶる」平仮名で名乗るということ。

屋号をあえて平仮名表記するのには、どのような意味あるいは効果があるのだろうか。一般的に、ひらがなは読みやすく、親しみや柔らかさをもたらす、とされる。

 

Massive Attack

というブリストル発のバンドで例示してみる。
先ずは、リーダビリティを考慮して日本語に開く。

 

マッシヴ・アタック

片仮名で表記してみると、カタカナの持つ鋭角さが立ち上がってきて、アルファベット表記よりもむしろマッシヴ感が高まり、アタック感も増大している。
マッシヴなアタックが、フロア全体を包み込んでいく様が目に浮かぶ。

 

続いて、平仮名表記。

まっしぶ・あたっく

一気に和んだ。
深夜帯から一挙に午後2時あたりに時間が飛んだ。
Massiveさはかき消され、しば漬けに近付いた。また。Attackっぷりは後景に退き、完全に待ちの姿勢になった。花王の洗濯洗剤の代表格である「アタック」が「あたっく」と表記されたならば、もう一つその洗浄効果に疑問符が浮かぶだろう。「汚れにアタック!」が、「汚れにあたっく!」では、もう汚れていたっていいじゃないか、という感じがしなくもない。


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「平仮名の力」
字義を補強するように働く、片仮名表記に対して、言葉の本来持つ意味と威光を減じさせる効果がひらがなにはある。

Massive Attack自体は、地獄の底から響いてくるような音楽であるのに、まっしぶ・あたっくならば、『ちいかわ』のアニメ化でテーマ曲を担当していても違和感のないバンドになる。


実は、『ちいかわ』はその愛くるしい見た目と、他愛のないナラティブの奥に、闇深く恐ろしい暗意が込められているのだというまことしやかな説があるが、それはこの際横に置いておく。
そして、『ちいかわ』の正式名は『なんか小さくてかわいいやつ』であり、見事に「平仮名の力」を体現している。「ちい」だけを「小」と漢字表記しているのは、単純に平仮名が連続して読みにくいからだろう。
そして、通称である『ちいかわ』を『小かわ』と表記しなかったのは、どっかの小料理屋風になることを避けたのだろう。か。「おかわ」とか読まれかねないし。
いずれにしても、ここにも、「平仮名の力」が働いている。

 

かつ、個人的にこのエントリーを書いてみて良かったのは、『ちいかわ』の正式タイトルが『なんか小さくてかわいいやつ』と初めて知れたことだ。
きっと、姪っ子とかに会った際に有益な知識として機能することだろう。
甥っ子にも自慢するだろう。まったく姪も甥も会うことないけど。

通常、『なんか小さくてかわいいやつ』を略するならば、「なんかわ」の方が採用されそうなものだが、あえて中途に位置する「小」を取り上げ、さらに「ちい」と平仮名に開くことで冠した『ちいかわ』でこれだけの支持を得ているのだから、「平仮名の力」を援用したタイトルとしては大正解なのである。
これがもし「なんかわ」であったら、と思うと背筋に冷たいものが走る。箸にも棒にもかからないような漫画に成り果てた可能性もあるのである。


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事ほど作用に、名付けというのは重要。

茶店の屋号として、「平仮名の力」を用いた店舗が今般見かけた「もう無い喫茶店」である。

 


rumble

という単語には、「ざわめき」「とどろき」ひいては「喧嘩」や「争い」といった意味が含まれている。

ある種「活気にあふれた店舗」を標榜する意味合いで名付けられた店名なのかも知れないが、rumble を「らんぶる」と平仮名表記することで、まさに親しみやすさが付加されている。

加えて、らんぶるの「ん」の右側と、「ぶ」の左側を重ね、丸文字風のフォントでロゴとしてまとめ上げている。
ここに至って、rumbleたる字義は遠のき、『ちいかわ』的なファミリアを獲得することに成功。

「自家焙煎珈琲豆の店」
という副題目と相まって、家庭的な香りさえも醸し出している。

 

「自家焙煎珈琲豆の店 らんぶる」
は、寺町通り、寺町一丁目バス停至近。

元来、古い商店が多く、閉業する店舗も相次いでいる地区。
ここに、こんな喫茶店があったんだなぁ。

googleストリートビューで当地の画像を遡ってみても、もっとも古い2012年9月時点で既に営業されていないように見えた。

 

 

ややもすれば、閉業後15年近く経って今もなお、その入口に刻まれた店名を残していることに、いくらか感心を覚えながら、かつてはバス待ちの近隣客などで賑わったであろう「らんぶる」を想像してみたが、あまりに想像を加速させる材料が無さすぎて、想像には及ばなかった。

「マスターは、平仮名の力を信じてらっしゃるんですね」

と、扉を開けて尋ねて「こいつ頭沸いとんのかいな」みたいな対応をされてみたかった。が、「らんぶる」はもう無い。

 

ちなみに、今回は「平仮名の力」に着目してみたが、rumble に対して「ヤンキーの力」を乗っけると「らんぶる」は「乱舞流」とかになるだろう。
ただ、そんなことは、どうでもよいだろう。