金沢 なるべく吸える喫茶店

吸えたら良いけれど吸えない時もあるから飲めたら満足です

もっきりや「緊張させちゃダメなんだけどね、本当は」

喉の渇きを癒したいとき、足の疲労が臨海に達したとき、しのつく雨をしのぎたいとき、買ったばかりの文庫本を開きたいとき、そして、紫煙をくゆらすひと時を過ごしたいとき。 路傍に佇む喫茶店の門をくぐる。 なるべくならば、煙草の似合う、そんな店がいい。


<本日のサ店>

もっきりや

外観

内装
メニュー

中国茶 ¥600

ここより下は、当ブログ執筆者の身辺雑記をふんだんに含んだ、取るに足らないとしか言いようのない雑文雑記ですので、お店の基本データのみを知りたい方は、上記目次より各項目をクリックし、あなたが必要とする情報を摂取したのち、早々に離脱することをお勧めします。バイバイ!

 

 

自動車運転が出来ることを証明するちょっと厚めの手のひらサイズのカードを持っているのだが、そのカードを持参することで、鉄の塊を作動させることは、私の能力値の限界を遥かに超えるので出来ない。

以前、人から借りた外車を運転し、粗大ゴミを処理場まで運ぶ途上で、右折しようとハンドルを切ったら、ハンドルを切りすぎて、半ばUターン気味になり、人家のブロック塀を破壊し、人から借りている外車の前面右半分が大破する事態を引き起こした。

その後、フロントバンパーをプランプランさせながら、なんとかごみ処理場には到着したのだが、係り方に「車はここでは処理できませんよ」と注意された。

車の貸主は丁度、海外旅行中でその間、車を借りていた。貸主が帰国するまで、一週間ほどの期間が有り、事故った直後は「マジで申し訳なさ過ぎる」と何も喉を通らなかったが、後半の数日で反省感が徐々に薄れてゆき、貸主に謝る際も「悪ぃ!」とカジュアル謝罪しかせず、「お前、クソだな」となじられたのも良い思い出。


つまるところ、私は自動車運転への素養が欠けているので、遠い地に赴くためには公共交通機関に頼るしかない。
数年前に没した近親者の墓が僻地にあり、この2月のバスダイヤ改編で、僻地までのバス路線が廃止されるとの報を受け、もう二度と墓マイラーにはなれないので、ラスト墓マイラーを務めあげるべく、バスに揺られた。

金沢市内には、残雪も少なくなっていたが、奥深く田舎道を進むにつれ、かなりの積雪が認められた。

金沢市内で20センチ積雪の際に、ここいらでは軽く100センチ雪が降るので、当たり前といえば当たり前。

共同墓地区画には、膝あたりまで達する積雪が残っており、任意の墓石まで辿り着けそうもない。「もう、いいか」と帰路につこうとしたが、帰りのバス時刻までは、ゆうに2時間はある。

意を決して、近親者の墓のある場所まで、造花を片手に向かうことにする。

オーセンティックな形状の墓ではなく、平べったい石を寝かせたタイプのデザイン墓のため完全に雪の没して、見つからない。この前、没したばかりなのに、さらに没するとは、没しても没し足りない人である。

場所の見当をつけて、素手で雪をかき分け、なんとか故人の墓を探し当てる。

近くに造花をぶっ刺し、終了。

スニーカーどころか、ズボンの膝下までどっぷり濡れまくる。
バカに時間を与えるとロクなことにならない。

しかし、まだバス時間まで1時間半あったので、すっかりズボンは乾いた。時間が全てを解決してくれる。

 

帰りに、片町でバスを降り、柿木畠まで鞍月用水と並行して歩く。
筋違いの竪町商店街のヤング感とは一味違うどっしり感のなか、「もっきりや」が見えてくる。

看板ですね

平行取れねぇのかよ

そして、入る前から吸えないこと確定です。

もっきりやは

吸っちゃダメ


扉を開けると、左手にCDや本の格安販売コーナー、正面にレジスペース。
右手窓際に客席があり、段差を降りるとカウンターとテーブル。
奥には、ピアノが置かれたステージが見える。

 

中国茶を注文し、店内を徘徊させてもらう。

「その辺のレコードはね。もうジャケットがボロボロなんで、背中見ても分かんないですよ」

「マスターは分かるんですか?」

「私は、位置で大体ね」


「レコードはリクエストも受けてるんですか?」

「昔は受けてたんですけど、今は、目が悪くなっちゃってね。リクエストが見えない」

紙片に曲目を書いて、店主にスッと渡し、レコードをかけてもらう。
そんな名曲喫茶やジャズ喫茶のやりとり。客も店側も、わかっている感じの「スッ」という動きのスマートさ。東京にいる頃、『ライオン』や『ヴィオロン』『クラシック』などの名曲喫茶に行ったが、特段荘厳で衣擦れの音さえも憚られるような『ライオン』でリクエストムーブを完遂した時には、完全に大人になったと感激したものだ。

 

「昔は、金沢にもジャズ喫茶もたくさんありましたね。私も学生のころよく行ったけど。今はほとんど残ってないですよ。『ヨーク』とか、大体男が先に死ぬから、奥さんが一人でバーになってたりして」

 

「もっきりや」
といえば、私にとってもライブハウスというイメージが強い場所。
ホールを埋めるタイプの演奏者ではないがかなり有名、といった人たちのライブは、かなりの確度で、もっきりや開催のイメージがある。

 

「4月からは、ライブたくさんやりますよ。3月までは雪の影響があるから、少し少なくしてたんですけどね。…そういえば、ホームページ更新しないとな」

「その辺もお一人でやられているんですか?」

「ま、手伝ってくれる人はいるんだけど、スケジュールとか、フォトショップ使ってポスター作るのも私」

 

壁には大きな浅川マキの写真。
色紙も飾られている。

 

MJQ坂田明灰野敬二

 

灰野敬二は、やっぱ変わった人ですか?」

「実は、そんなこともない。という話もあるんだけど、ご本人がそういうイメージを受け入れてるからね。そこは」

高松次郎『この七つの文字』『THESE THREE WORDS』リトグラフも飾られている。

「こないだ、そこの工芸館展示があって。人に教えてもらって、見に行きましたよ」

 

 

もっきりやの店内にあるひとつひとつが、この店の歴史であり、マスターの好きなものであり。
店を作る、ということは、自分の部屋を作るようなものでもあるのだろう。

「21で、大学生三年で店開いたから、もう50年。大学の時から…、ま色々ありましたね」

「大学の時から…」に続けて、一瞬これまでの道のりを語ってくれそうになったのだが、話はそこで止まった。
振り返れば、そこまで、飾られている写真や画について、「俺もアートも音楽も詳しいっすよ」みたいなゲスな態度で質問をしていた己に気付く。最悪な私。もっきりやの店内に散らばる文化遺産の欠片たちに乗っかって、得得と喋りすぎた。反省。
私のような、連中を軽くいなして50年。年季も人徳も大違い。反省。

この次は、もっと地に足つけた会話します。

 

話の流れで、金沢の老舗バーの話になり、マスターにおすすめを聞いてみる。

「バーだけは、人それぞれだからね、好き嫌いが」

「やっぱ、初めて入るバーは緊張しますからね」

「緊張させちゃダメなんだけどね、本当は」

 

客商売では、私のような底の浅い人間も無下にはできない。
マスターのガードを下げた緊張を伝播させない話ぶりにも、もっきりやの歴史が息づいているように思った。
なんというか、生き物として惨敗している。


おすすめのバーをいくつか教えてもらったのだが、もう今日は惨敗なので、真っ直ぐ帰宅することにする。

「ここから3.4年で、片町の通りとかは建て替えすごいですよ。うるさくて叶わんですよ、解体から工事から」


50年の間、少しずつ傷んでいく店を少しずつ直しながら続けてきたという。
きっと、この場所は周囲の喧騒を、何食わぬ顔でやり過ごしていくだろう。

もっと、マシな人間になって、また来よう。

google MAP

所在地

金沢市柿木畠3−6

営業時間

12:00~19:00(早い場合)
12:00~22:00(ライブ時)

定休日

なし

席数

カウンター x 5
大テーブル x 3
小テーブル x 1

電源

未確認

Wi-Fi

未確認

HP

もっきりや | Kanazawa MOKKIRIYA

店内BGM

donald fagen『maxine』

トイレ

未確認

喫煙の可否

吸っちゃダメ