金沢 なるべく吸える喫茶店

吸えたら良いけれど吸えない時もあるから飲めたら満足です

もう無い喫茶店「ぱるてぃーた」

茶店というジャンルを細分化すると、

 

ご存じ「純喫茶」
酒類も扱う「一般喫茶」「特殊喫茶」「不純喫茶」
音楽を楽しむ「ジャズ喫茶」「レコード喫茶」「名曲喫茶
歌唱を楽しむ「歌声喫茶」「カラオケ喫茶」
一応マンガを楽しむことになっている「マンガ喫茶
ギャラリー併設の「画廊喫茶」
メイドや執事にもてなされる「メイド喫茶」「執事喫茶
パンツを履かない「ノーパン喫茶

 

などなど存在するわけですが、なかでも敷居の高さを感じさせるのが、

名曲喫茶

 

ただ、一度その高そうに見える敷居とやらを跨いでしまえば、なんのことはない場所。
リクエストを書いた紙片を店主にサッと渡すほどの音楽的知見と所作を有さずとも、まあ普通の喫茶店より、二段階ほど会話のボリュームを下げていれば問題ない。

大前提、私には喫茶店に連れて行くような人物はいないので、個人プレイをする限り、声帯を震わせることはない。

 

 

東京にいた頃、「ヴィオロン」や「ライオン」。大阪でも「野ばら」などに出向いたが、「名曲喫茶」と謳っていて、多少肩肘を張ってしまうが、それはあくまでコッチの過剰な自意識が発動しているだけで、一旦着席すれば、どこも快適な場所であった。

もちろん、8年ぶりに開催されたクラス会の帰りに延長戦で喉が枯れるまで話し尽くしたい時や、マルチ商法の勧誘を3時間かけて受ける時に「名曲喫茶」を選ばない方が良い。だけ。


足で稼いだわけではないので確証はないが、現在、金沢市には「名曲喫茶」はないようだ。

かつて、この北山堂ビル地下一階に

「名曲と珈琲 ぱるてぃーた」

はあった。

 

お隣には、九谷焼を始めとした陶芸品を扱う「北山堂」がある。
北山堂の隣にある「北山堂ビル」は高確率で、北山堂さんが所有されていると思われるので、店内に入り、お若い店員さんに「ぱるてぃーた」について伺うと、その方がご主人らしき人物を呼んでくださった。

 

「すみません。この隣のビル、地下に名曲喫茶ありましたかね?」

「ああ、もう5年、6年前かな。閉じられたんですよ」

 

とのこと。

ネットでは2017年に入店された方のクチコミが残っている。

九谷焼は北山堂で買おう!

『金沢カフェ100』金沢倶楽部 2004年
には以下のように「ぱるてぃーた」が紹介されている。

クラシック音楽に浸れる独特の世界

ご主人の箕輪さんは、かつて自分が通っていた東京吉祥寺『こんつぇると』のような名曲喫茶をと、昭和62年にここを開店させた。

地下にある控えめな佇まい。
店内にはクラシックの音色が心地良く響き、街の喧騒が別世界のようにも感じられる。
今となっては幻の存在ともいえる名曲喫茶がここにある。

 

足踏みミシンのテーブルや年代物の調度品が配された空間。
コーヒーや紅茶は、伊万里焼や有田焼のカップにて。

 

ピンク電話のあるスペースにまで、ご主人の私物である本やレコードがぎっしり置かれている。

 

席数は14と小ぶりな喫茶店だったようだ。

2004年刊行のガイドブック『金沢カフェ100』内の記述で既にして、

「今となっては幻の存在」

と言われてしまっているのだから、2025年現在では幻どころか宇宙の塵である。

 

 

「コーヒーや紅茶は、伊万里焼や有田焼のカップにて」

の記述も興味深い。
入居しているビルは、九谷焼の北山堂なのに…
別地方を推すあたり、店主の気概を感ぜずにはいられない。

 

壁面のテナントサインには、地下一階の記載が無く。
「ぱるてぃーた」の後にテナントは入居していないようだ。


地下に続く階段を見遣る。

と、
階段上部の壁面にあるガス燈を思わせる照明。
この雰囲気、この感じ!

名曲喫茶らしさをたたえてはいないか?

 

ここで、踵を返してもう一度北山堂に戻り、

「あの壁んとこの照明器具、アレ『ぱるてぃーた』の遺産じゃないですか?」

と聞いてみた。
と思うか?
図々しくそんなことを聞く胆力は私にはない。
もし、そんな根性があるのなら、

「『ぱるてぃーた』さんは、伊万里とか有田を使ってたらしいじゃないですか?九谷を使ってもらうべきだったんじゃないすか?」

とも聞きたかったが、無理。無理筋。

 


 

せっかく金沢に帰ってきたのだから、地元の名曲喫茶をのぞいてみたかった。
地下に潜っていくシュチュエーションも、趣がある。

しかし、
「ぱるてぃーた」はもう無い。

 

名曲喫茶の存続は、なんとなしその地の文化的成熟度の反映とも思える。
2025年現在、名曲喫茶ゼロの街、金沢。
その程度の都市である。

 

金沢の街に潜む名曲喫茶「ぱるてぃーた」で、
リクエストを書いた紙片を店主にサッと渡すことはもう出来ない。