金沢 なるべく吸える喫茶店

吸えたら良いけれど吸えない時もあるから飲めたら満足です

もう無い喫茶店「禁煙室」

「店名の◯◯って、どこから名付けたんすか?」

茶店の扉を開けるまでは、必ずや「店名の由来」を聞くのだ。と、決意を固めて入店するのだが、たいがい失念してしまう。

愛想ゼロで対人不安を抱えているので、そもそも会話が弾まないことが主たる原因だが、「この町の変遷」とか、「時候の変化に対する衣服の順応性」などを話している途中で、「この店なんで〇〇っていいまんのん?」と切り込むのが、かなり困難なのである。

どうでも良い話をしていたのに、突然踏み込んだ質問をすることで、綱渡りで乗り切っていた会話の安定を失してしまうのが怖い。たかが店名と侮るなかれ、マスターやマダムは自らの城の屋号に、深い想いをこめていることが多い。

ので、全っ然「店名の由来」を聞き出せていない不明を恥じている。
もし、まだ「禁煙室」が営業していても、容易に「この店の名前でっけど、禁煙室ってどういうことでっか?」と聞けたとは思えない。

以前の記事でも触れたが、喫茶店「禁煙室」はもう無い。

kanazawa-drifter.net



では、その跡地には何があるのか。

かつて、「禁煙室」があった場所は、尾張町
一大観光スポットである、ひがし茶屋街の入口なので、さすがに空き店舗ではない。


「バリア」

という名のレストランになっている。
店先の造りも、ホームページも、非常に前のめりで、コンセプトが嫌という程前景化しており、東京国立博物館の法隆寺宝物館みたいである。
「バリア」という店名通り、入るのに勇気を奮い立たせねばならない感じがビンビンである。

 

 

ここで往時の「禁煙室」をgoogleストリートビュー2020年10月分で確認し、落ち着きを取り戻したい。

 

「禁煙室」は、『金沢カフェ100』金沢倶楽部 2004年 にて以下のように紹介されている。

かつて『禁煙室』という喫茶チェーンが多く存在した金沢でその名を唯一残す。
店名や「No smoking room」の英字に喫煙者が敬遠したこともあって、「たばこの吸える喫茶店」と謳う看板を掲げたというご主人の前野克祐さん。好きだからこそ続けられると、今もなお夫婦二人三脚で店を守り続けている。

やはり、吸えるけれども「禁煙室」という諧謔がにわかには通用しなかったことが語られている。


吸える
茶店 なのに
禁煙室 なんだぜ!

 

というユーモアセンスが、確実に滑っている。

即座に思い出したのが、

餃子屋が、「営業中」を

「営中」

と表記する、あのイヤな感じ。

または、


一休さんが、「この橋渡るべからず」と書かれた立札を眺めた後に、「はしっこ歩けばいいんでしょ」と、とんちという名の屁理屈をかます、あのイヤな感じ。

 

だが、
たばこの吸える喫茶店「禁煙室」
とは少しニュアンスが異なる。


「禁煙室」に感触が近いのは、多分

 

ライブハウス「演奏禁止」
ストリップ小屋「着衣」
ミリタリーショップ「平和」
会員制バー「どなたでもお入りください」
和菓子司「カヌレ

 

みたいなことだろう。
スリムドカン」も近似値か。


銀座まるかん スリムドカン80g No.19入浴料 1袋付きセット

 

というわけで、ちょっとばかしお寒いネーミングと言ってよい喫茶店「禁煙室」だが、金沢に住む多くの人間にとっては、すべりを軽く通り越して、ごく当たり前に「禁煙室」は「たばこの吸える喫茶店」として認識されていた。

それは、一重に「禁煙室」が紡いできた時間、歴史に依存する。
茶店「禁煙室」はもう無い。
そこにはもうバリアしかない。