
2024年/ノルウェー・パレスチナ/アラビア語・ヘブライ語・英語/95分
あらすじ
ヨルダン川西岸地区のマサーフェル・ヤッタで生まれ育ったパレスチナ人の青年バーセルは、イスラエル軍の占領が進み、村人たちの家々が壊されていく故郷の様子を幼い頃からカメラに記録し、世界に発信していた。そんな彼のもとにイスラエル人ジャーナリスト、ユヴァルが訪れる。非人道的で暴力的な自国政府の行いに心を痛めていた彼は、バーセルの活動に協力しようと、危険を冒してこの村にやってきたのだった。
同じ想いで行動を共にし、少しずつ互いの境遇や気持ちを語り合ううちに、同じ年齢である2人の間には思いがけず友情が芽生えていく。しかしその間にも、軍の破壊行為は過激さを増し、彼らがカメラに収める映像にも、徐々に痛ましい犠牲者の姿が増えていくのだった ー。出典:映画『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』公式
煙草シーン
中心人物のバーセル、協働するジャーナリストであるユヴァル、村の老人たちやバーセルの父、祖父らがタバコを吸う
お土地柄か、水タバコも多い
煙草シーンの役割
作品の構成上、過酷な現実が起こり、その後事態を振り返ったり、懸念したりする際にバーセルとユヴァルが話し込むシーンが多くあり、バーセルが本音を吐露する道具立てとしてのタバコ
ベスト煙草シーン
バーセルが水タバコを吸っていると、村の子どもが寄ってきて、水タバコを吸う真似っこをするシーン
単純にほっこり
感想
兵士と入植者による取り壊しと追放
↓
それでも続く日常と村人たちの諦観を通り越した笑顔笑顔
↓
これから、先行きの不安
案じるバーセル
この三つがループする前半部。たくましいなぁ、と指を咥えて観ていると、撃たれた息子についてのメディア取材を受けた後、取材時には気丈に振る舞っていた母親が、四肢麻痺となった息子をはかなんで悲嘆に暮れる場面までは、かなりドライなタッチ。
この暴力と収奪が当たり前であること、この現実を甘受はせずとも受け入れて前を向く人々。日常が壊されても、それでも生きていく覚悟を大上段に構えず淡々と描くことで、逆に兵士や入植者の非道ぶりが照らされる、見事な構成。
序盤、家が壊されて洞穴に避難した際に、
「家は夜作る」
と皆言う。
「歴史は夜作られる」みたいな現地の諺かと思ったら、本当にこの人たちは、壊されても壊されても、また作る。また建てる。
「将来や希望は、家族で暮らすことと、子どもたちが教育を受けること」
と話す彼らが、それをひたすら実践していることに感銘を受けた。
土地を捨てることへの忌避感
というより、
この土地は私たちの居場所。捨てられるわけがない
日本の福島や能登とも重なるが、所与の権利を守るために闘う、戦わざるを得ないということへの真っ当なポジティブさに感心する。
兵士の取り壊しに憤るユダヤ人ジャーナリスト ユヴァルに、当事者であるバーセルは、
「君は熱くなりすぎ、君は10日間しかいないけれど、僕らは何十年も続けてる」
と言い、ユヴァルは、
「本当に10日間しかいないと思うか?」
と返す。
バーセルはただ笑う。
が、この作品内でユヴァルは長い間バーセルと並走していく。
二人の友情、バディものとしても良く出来ている。
しかも、過度にウェットにならず、終始ドライに。
理不尽な暴力を伝えることが第一義だとしても、この友情が『ノー・アザー・ランド』を面白い映画にしている。


