2025年/アイルランド/英語/106分
あらすじ
1970年代の北アイルランド。血塗られた過去を捨て去りたいと願う暗殺者フィンバー・マーフィーは、正体を隠し、海辺の田舎町で静かに生きていた。だが、引退を決意した矢先、凄惨な爆破事件を起こしたアイルランド共和軍(IRA)の過激派が町に逃げ込んでくる。さらに、ある出来事が彼の怒りに火をつけ、テロリストとの殺るか殺られるかの壮絶な戦いが幕を開ける。避けられぬ宿命に導かれるように、フィンバーは過去に決着をつけるため、最後の死闘に身を投じる ー。
出典:映画『プロフェッショナル』公式サイト
煙草シーン
明示されていないと思うが、1974年頃のお話なので、登場人物が皆スパスパ吸っている
男女問わずほとんどの喫煙者は紙煙草だが、主人公のリーアム・ニーソンはパイプを嗜む
煙草シーンの役割
オープニングのパブ前でIRAによる自動車爆弾が炸裂するが、その直前パブの軒先で犠牲者となる男が煙草をふかしている
このシーンは、「これから始まるのは、現代のお話ではない」ことを観客に伝えるため
その演出に、煙草が用いられている
ベスト煙草シーン
プロの仕事人であるリーアム・ニーソンが、近所の子どもを虐待しているらしいIRAの青年を始末せんと車に同乗しているシーン
放埒に生きる青年は貰い煙草を吸い、リーアム・ニーソンはパイプをふかす
リーアム・ニーソンは、アイルランドを創建したとされる巨人フォモール族の伝説を話し、青年はそれを笑って聞き流す
IRAのような時に非道な手口も使う青年と、昔気質の仕事人リーアムの対比を、紙煙草とパイプという嗜好品の違いによって強調した説明過多なシーンだが、その意図はよく分かる
感想
まず、邦題の『プロフェッショナル』の評判が悪いようだ。
確かにリーアム・ニーソンという俳優の『96時間』ノリで、ユーロコープ色満タンの作品と誤解させるようなタイトル付けを感じるが、私は悪くないと思う。
原題の『in the land of saints and sinners』を直訳した『聖人と罪人の土地』では売りにくいし、しっかりリーアムのアクションもあるので、『プロフェッショナル』で良い。
むしろ合ってる。
『沈黙のアイルランド96時間攻防戦』
とかなら困るが、落とし所としてはイイ線。
度々、異なる価値観の衝突が描かれる映画である。
「ベスト煙草シーン」で触れたような世代間相剋は、若い殺し屋やIRAと昔気質の殺し屋リーアムの手際の差にもあらわれる。
IRAの連中は人を殺してから金を奪う、また若い殺し屋は殺された依頼主の部屋から大好きなレコード盤を奪う。
一方、リーアムは仕事として殺した男の上着のポケットから財布をくすねるようなことはせず、そのまま墓穴に入れる。
この仕事に対する価値観の違いが、リーアムに殺しの仕事を辞める決意を促す。
また、リーアムと射撃ごっこで賭けをする地元警官は、アガサ・クリスティが関の山でドストエフスキーなど知らない田舎者。
彼は、オーラスのパブでの銃撃戦の前には、
「助けられることがあるなら言ってくれ」
とリーアムに話しかけるが、
「あんたには無理だ」
とその言葉に伴わないであろう決意を否定される。
このやりとりが伏線となって、『ダイ・ハード』のレジナルド・ベルジョンソンのように窮地のリーアムを地元警官が救うなどという奇跡は起こらない。
そこには、都会から流れてきたリーアムと、地元でのらりくらり警官業に勤しむ地元警官の埋まらない差異が描かれる。
突然覚醒するような奇跡は起こらない、プロフェッショナルの前に何も出来ない。
そんなリアリティこそ、この映画の真骨頂だろう。
虐待にあっているであろう(虐待そのものは描かれない、それがこの映画のトーン)少女に飼っていた猫を、
「何かを愛すると人間らしくいられる」
と言って預け、件の地元警官にはドストエフスキーを贈り、静かな田舎町に闖入したテロリストを退治し去っていく。
都会からの流れ者が田舎町に合わなかった話、要約すればそれだけの話。
『プロフェッショナル』
この場合のプロとは、ひたすら俗人で罪人でしかない男のことだ。
その意味でこの映画の邦題は悪くないと思う。