喉の渇きを癒したいとき、足の疲労が臨海に達したとき、しのつく雨をしのぎたいとき、買ったばかりの文庫本を開きたいとき、そして、紫煙をくゆらすひと時を過ごしたいとき。 路傍に佇む喫茶店の門をくぐる。 なるべくならば、煙草の似合う、そんな店がいい。
<本日のサ店>
四月
ここより下は、当ブログ執筆者の身辺雑記をふんだんに含んだ、取るに足らないとしか言いようのない雑文雑記ですので、お店の基本データのみを知りたい方は、上記目次より各項目をクリックし、あなたが必要とする情報を摂取したのち、早々に離脱することをお勧めします。バイバイ!
この日も雨。
まだ、2025年も明けて数日なので、お屠蘇気分。私、お屠蘇気分なのよね。という訳だが、本通りを一本外せば、ほとんど観光客の姿を見かけない。
金沢市というのは、元来、寂しい地方都市だと思う。
繁華街に近接する公園で、ヤニをキめていたら、
「なんか、吸っとる人おらんから、不安で、あんたさんの近くで吸うていいかい?」
とKANGOLハンチング逆かぶりスタイルの若々しさ漲る老紳士が話しかけてきた。
「どうぞ、どうぞ。連れヤニで」
「ここから兼六園はどれくらいです?」
10分ほどの道程をお伝えする。
「あんたさんは、地元の人かい?」
「そうです」
「旦那さんはどちらから?」
「あたしは、京都から。あの連中と一緒にね。もう、棺桶に片足突っ込んどるから。体動けるうちにね」
KANGOL紳士の指差す先には、傘をさして歓談する同年輩のご友人たち。
「京都の人が、金沢なんか来てもつまらんでしょ?京都の劣化コピーみたいな町でしょ?」
「いやー、そんなことないわ。今の京都は、ゴミゴミしててね。こちらは、静かでな。よろしいわ」
いけず京都人と、腹黒金沢人の、上っ面を優しく舐めるような会話である。
先のKANNGOL紳士の発言を、京都人のホンネ変換すると、
「ホントに、金沢はリトル京都やね。とにかく京都は最古でありながら最新のハイパーシティやから、こんなに閑散としてないわ。人気なくて、よろしいなぁ」
となる。
聞けば、KANGOL紳士は齢77だそうで、かくしゃくを絵に描いたようで、足取りも壮健に兼六園に向かっていった。
なんか、サミュエル・L・ジャクソンみたいなコーディネートで、イカしていた。
金沢人としてホンネ変換しても、イカしていた。
今は、すっかりとシティおよびカジュアルテイストのホテルが居並ぶ街へと変貌したが、かつては証券会社が軒を連ねる街であった尾山町。
その都心軸道路と東に並行する通り沿いに、「四月」はあります。
任意の店舗に一見客として、初来店する際の心理的ハードルが、このブログをやることでいくらか緩和されていることに感謝。あなたですよ。あなたに感謝しています。ありがとうございます。
「四月」もかなり一見冷やかしをブロックするような、佇まい。
エントランスはトンネル様で、店の雰囲気も、薄暗っぽいなぁくらいで、窺い知る由無し。
でも、思い切って扉を開けましょう。
入口扉を開けて直に店内がのぞめる訳ではなく、目の前の壁を右へ迂回することで、店内の全景があらわれる。左手にカウンター。右手に2人掛けのテーブル席が壁に沿って並ぶ。
「一人ですが、いいですか?」
カウンターでしゃんと立ってらしたマダムが、入口すぐのテーブルへいざなうように、手のひらを向ける。
席に座ると、マダムがお冷を。その際、
「・・・・・で、いい・・ですか・・・」
む、ちょっと何言ってるかわかんなかった。
「・・・ブレンドでいいですか?」
「はい。お願いします」
メニューはテーブルに無いし、店内を見回しても注文できるよすがは見当たらない。
出来れば、コーシー以外がよかったなぁ、と思うが、今さら引き返せない。
そんな、ある種の緊張感が漂う。
入口扉を開けた先に広がるこの素敵空間は、ちょっとした異世界に感ずる。
薄く流れるジャズボーカル、整然として無駄は無く、書や生花が喫茶空間をやさしく彩る。
スナックやバーに準ずる世界観だが、猥雑さはなく、マダムが細部まで統べているような。
テーブルに置かれた、青くって透明な物体は、灰皿でいいんだろうか?
汚すのがためらわれる美麗さ。
「煙草吸っても…、これ灰皿でいいんですよね?」
「はい」
いやー、完全に「四月」の世界観に呑まれている私がいる。
そして、四月は
喫煙可
着火するライターの音、飲みつぐごとにソーサーとカップが重なる音、私の鼻息。
それ以外は、静謐極まりなし。
マダムは、読みかけの雑誌に目を落としている。
書影は覗けないが、多分『実話BUNKAタブー』ではないだろう。
ただ、ひどく落ち着く空間であることは、疑いようがない。
イスとテーブルの配置は、少し窮屈で、座高もいくらか低過ぎる気がするが、それは私の体型が醜いせいだろう。
ずっとこうしていられるような気がするし、ずっとこうしていたいとも思うが、同時に今すぐ席を立って、コンビニの前にうんこ座りして『実話BUNKAタブー』を貪り読みたい、そんな背反した感情が私のなかに生じている。
YOUは何しにFランに? 卒業しても何のメリットもない低偏差値大学に通う学生に聞いてみた [雑誌] 実話BUNKAタブー特別編集
店内を凝視していると、板張りの天井のカウンター内だけが、格子状になっていることに気付く。面白いつくり。格子の上は抜けていて、照明が仕込まれていたりするのだろうか。
煙草をたらふく吸って、席を立つ。
緑魔子を思わせる容貌の、素敵マダムと対面。
「300円になります」
安っ。
「変わった造りですね。この上の、格子になってるところ」
カウンターから、格子を眺めると、吹き抜けているのでもなく、照明がある訳でもなかった。ただの意匠か。
「なんでしょうね。つくってくれた人が、なんか、いい具合にやったんじゃないですかね」
「なるほど、ですね」
びっくりするほど、ノンクリティカルな会話をして、退店。
外に出て改めて眺めると、看板の揮毫もイカしている。
もしかすっと、高名な先生の手によるのかも知れないし、店内の書ともどもマダムの手によるのかも知れない。



今日は、完全に店の雰囲気に負けてしまったから、次回マダムに聞いてみたいことは多い。
先ずは、コーヒー以外のメニューが頼めるかどうか?伺ってみなきゃならん。
google MAP
所在地
金沢市尾山町3−41
営業時間
8:00~18:00
定休日
なし
席数
カウンター x 10
2人テーブル x 3
電源
なし
Wi-Fi
なし
店内BGM
JAZZボーカル系
トイレ
未確認
喫煙の可否
喫煙可能