喉の渇きを癒したいとき、足の疲労が臨海に達したとき、しのつく雨をしのぎたいとき、買ったばかりの文庫本を開きたいとき、そして、紫煙をくゆらすひと時を過ごしたいとき。 路傍に佇む喫茶店の門をくぐる。 なるべくならば、煙草の似合う、そんな店がいい。
<本日のサ店>
モンシェリ





ここより下は、当ブログ執筆者の身辺雑記をふんだんに含んだ、取るに足らないとしか言いようのない雑文雑記ですので、お店の基本データのみを知りたい方は、上記目次より各項目をクリックし、あなたが必要とする情報を摂取したのち、早々に離脱することをお勧めします。バイバイ!
金沢バイパス道路を、津幡方面に向かうと福久という地区に入る。
このあたりは、私の自宅からはかなり距離があるので滅多に赴かない。
ただし、福久には金沢イオンがあり、イオン内のシネコンで、金沢市下ではコチラのイオンシネマでしか掛からない作品が上映されることがしばしばあり、月イチくらいのペースで訪れる。
そんなで、バイパスを通る際に、「珈琲館 モンシェリ」の存在は認識済であった。
本日も、イオンシネマで映画鑑賞をせんと朝早くから動きだしていた。
Google先生によると、「モンシェリ」は朝8時からの営業とのことで、7時半あたりに道路を挟んで眺めてみる。

確かにまだ営業は始まっていないように見えたので、近くの公園で一休みすることに。
何度か訪れている公園だったのだが、立入禁止になっている。

この公園の中央には、巨大なバッタの遊具があり、近隣の小学生に混じってバッタの羽根に乗っかることを常としていたのだが、これは入ってはいけないのだな。
多分、立入禁止とはそういう意味だと思う。
残念。
公園へのストロークにベンチがあったので、8時まで待機。
しかし、この公園無くなってしまうのだろうか。
公園には、動物系の遊具が大半で、昆虫系は滅多に見かけないので、是非ともこの巨大バッタはどこかに移設してもらいたいところ。
子どもが少なくなっている時代にあっては、公園というのも存在意義を問われ、無くなってゆく傾向なのかも知れない。
「もう無い喫茶店」
を見つけては画像を保存することに腐心する日々であるが、無くなってしまう公園という文脈も当然存在する訳だ。
このバッタ公園も、行く末を見守っていきたい。

8時を過ぎて「モンシェリ」に足を向けると、続々と駐車場を来訪客が埋めていく。
これは、根強いファンが多い喫茶店とお見かけする、楽しみ。
裏手の看板には、
「営業時間AM7:30〜」
とある。
また、Google先生に誤情報をつかまされたのか、と瞬間憤ったが、店内の張紙では8時開店とあったので、憤りからの安寧が私に訪れることとなる。
なにより、7:30開店だったならば、バッタ公園の惨状を確認できなかったのだから、トレードオフ。よしとしよう。
次々に車から店内に消えてゆく皆さんのケツを追っかけて、私も「モンシェリ」への扉を開ける。

大ぶりのショーケースに、観葉植物、見事なレリーフ。
外観からの想像通りかなりの大箱店舗。
いいですねー、ということで扉に手をかけんと進む。

しっかりAM8:00〜との表記。
Google先生ごめんなさい。
と、
問題は、その横に貼られたご挨拶。

敬愛
から始まるその内容は、衝撃的な言葉を含んでいた。
「珈琲館 モンシェリは、2025年7月をもちまして閉店の運びとなりました」
えええー。
今日は、7月13日。
えええー。
なんとか間に合ったとも言えるが、初訪問からほどなく閉められてしまうのか。
驚きと安堵が同時に襲ってきた。
以下、「敬愛」と題された文章を書き起こす。
敬愛
ご来店のみなさま
いつも珈琲館モンシェリをご愛顧いただきありがとうございます。
1982年(昭和57年)開店を目前に急逝したマスターに代わり新米ママとして歩みだした頃から、至らないこともたくさんありました、ここまで43年、お店をつづけてこられたのは、一重にみなさまのお支えがあってのことと振り返ります。
モンシェリという店名には、「敬愛」「私の愛しい人」「私の大切な人」という意味をこめています。ここまで、コーヒーを愛して、食を愛して、場を愛して、なにより人を愛してをモットーに一日一日を大切に重ねてきました。モンシェリをとおして出会ったお一人おひとりに感謝を伝えたいです。
珈琲館モンシェリは、2025年7月をもちまして閉店の運びとなりました。
みなさまの健康とご多幸を祈ってご挨拶とさせていただきます。
長きに渡るご愛顧、誠にありがとうございました。
珈琲館 モンシェリ
店主 ママ 森口春美
名文。
亡くなられたマスターとお客への思慕と感謝。
モンシェリという店名の由来が、あらゆる人に向けられている。
短い文章のなかに、目に浮かぶようなドラマと万感がこめられている。
初めて来たのに、ちょっとグッときてしまって、入ることが躊躇われる。
この名文でグッとくる資格もないのに。
今日の初訪問が、最後の訪問になるかも知れないのに。
と、もうドアベルが涼やかな音を立てている。
お邪魔します。

店内はやはり大きく、入口から左手にカウンター、右手には二段構成のテーブル、ソファ席が居並ぶ。
中央部に調理場があり、3人の女性が出迎えてくれる。
それぞれに、バンダナを頭に巻き、エプロン姿。
エプロンやバンダナは、統一されていなくって、チェーン店のようではなく、「モンシェリ」の歴史が育んだスタイルとなって帰着している。
「一人ですが、向こうのテーブルでもいいですか?」
「どうぞー」
カウンターにはご常連さんらしき方々が大勢いらしたので、グッときてる単なる一見はテーブル席に向かう。

この時間帯はモーニングメニューとのことで、トーストセットをお願いする。
しかし、この二段になったテーブル席の造りは煌びやかだ。
大きな窓からは陽がふんだんに射しこみ、天井を支える丸太、柱に彫られた細工、壁付けも天井吊りもさまざまな意匠の照明が光り、絵画の大きさもモチーフもバリエーション豊か。




ベロア調の椅子の座面や背面の擦れ具合に歴史が見てとれる。



トーストの到着時、3人の内のおひとりのマダムに聞く。
「閉じられるんですね」
「はい。今月で」
「7月の何日までですか?」
「えとー、定休日が…いつやったかな?土曜はお休みだから」
「ああ、7月は31が木曜日ですね。なら、7月いっぱいですか?」
「そうか。なら、そうです!」


やたら、おしぼりからいい香りがした。
なんか、店出てからもいい香りが残っていた。

フワサクのトーストを齧りながら、店内を見渡し、しばし考える。
入店時に読んだ、閉店を告げる名文に心を動かれたのは確かだ。
しかし、どこか「閉店する」という響きに興奮している自分も否定できない。
ややもすれば、「閉店」という事態に興奮してしまっている。
私は、「珈琲館 モンシェリ」の43年の内、たった30分しか知らない。
なのに、「閉店に間に合ったー」とか、どこか欣喜雀躍しているのである。
廃墟マニアや閉店厨の背後にある「時代の変遷を感じてやったぜ!」みたいな仄暗いカタルシス。
そんなものは、「モンシェリ」に通い詰めた人たちからすれば、唾棄すべき感情であろう。
私が抱いた仄暗いカタルシスは、あと少なくと一回は「モンシェリ」に足を運ぶことで軽減できるだろうか?
もちろん、あらゆる人にとって、そんなことはどうでも良い、のだろう。
ただ、私にとってはどうでも良くはない。
きっと、また来よう。
そうアイスコーヒーを飲みながら決心する。

慌ただしく動かれている調理場の3人の女性は、三世代に見えた。
「敬愛」から始まる文章で、「新米ママ」だった方。
その娘さん。
そしてまた、その娘さん。
外見から想像する年齢と照らし合わせると、「モンシェリ」は現在三世代が守っている、ということか。
守ってきた。
と言わねばならないのかも。もうすぐ。

会計時に、お孫さん(多分)が対応してくれたので、性懲りもなくまた聞く。
「7月いっぱいなんですね」
「そうなんですぅー」
「お疲れ様でした」
「いえー、どうも」
「店内、写真撮らせてもらっていいですか?」
「どうぞ、どうぞ」




各テーブルに置かれた、呼出ベル。
だいぶくたびれてはいるが、これだけの席数と広さを誇る店では必要不可欠だったに違いない。
43年間、この大箱喫茶店を切り盛りするのは大変だっただろう、と想像する。
それほど間をおかず、ご常連らしき人たちが来店し、「おはよう」「おはようございますー」と長年培われたであろうやりとりをされ、ご自分の指定席であろう場所に散っていく。
写真をそこそこにして、店を出ることにする。
もう一回来て、また撮らせてもらおう。
「ごちそうさまでした」
「ありがとうございますー」
「また、もう一回くらい来ます」
「はい、ありがとうございます」
店を出る私の背中に三方向から、三世代の声色が投げかけられる。
「ありがとうございましたぁ」
「ありがとうございましたー」
「ありがとうございました」
2025年7月31日 17時
金沢から、喫茶店の灯がひとつ消える。
今日は、映画を観ずに帰ります。
「モンシェリ」に来ただけで、充分にドラマチックでした。
そして、今月中にまた映画観に行くついでに、「モンシェリ」来ます。
あくまで、「ついで」ですよ。私にとって喫茶店は。時間をつなぎ、場所をつなぎ、人をつなぎ、喫茶店は、暮らしの「つなぎ」。
「モンシェリ」を暮らしの真ん中に据えるほど私は「モンシェリ」を知りません。暮らしの「メイン」に位置付けるほど、通えなかった。
そんな、ちょっとした後悔を晴らすためにも、
絶対来ます。
ああ、すっかり忘れてましたけど「モンシェリ」は
吸っちゃダメ
です。
(二の次感)


「モンシェリ」への最後の訪問は👇
google MAP
所在地
金沢市福久町ヘ31
営業時間
8:00〜17:00
定休日
土
席数
カウンター x 7
テーブル x 11
電源
なし
Wi-Fi
なし
SNS
なし
店内BGM
石川テレビ(フジテレビ系列)
Acoustic Cafe『Fof Your Memories』
トイレ
男女別
男(小・大)
喫煙の可否
吸っちゃダメ




