喉の渇きを癒したいとき、足の疲労が臨海に達したとき、しのつく雨をしのぎたいとき、買ったばかりの文庫本を開きたいとき、そして、紫煙をくゆらすひと時を過ごしたいとき。 路傍に佇む喫茶店の門をくぐる。 なるべくならば、煙草の似合う、そんな店がいい。
<本日のサ店>
一丁目
ここより下は、当ブログ執筆者の身辺雑記をふんだんに含んだ、取るに足らないとしか言いようのない雑文雑記ですので、お店の基本データのみを知りたい方は、上記目次より各項目をクリックし、あなたが必要とする情報を摂取したのち、早々に離脱することをお勧めします。バイバイ!
昨年まで居住していた大阪という所は、「ライトアップ」というヤツが大好きで、そこら中しょっちゅう、元々暗いところに、電球めっさくくりつけて、ガンガンに照らす。
すると、その灯りが誘蛾灯になって、スマホ構えた老若男女が集まってきて、なんとなく賑わう。
みたいな施策が横行しておった訳だが、金沢のような田舎町の良いところは、暗い場所はキッチリ暗いところである。
そんな金沢も最近はライトアップしがちで、大したもんである。
で、犀川ベリの桜並木もライトアップが始まったので、母親と出かけてみた。
昨年、架橋100年を迎えた犀川大橋は桜色に染まっていた。


私としては、なるほどですね〜という雑感を得たのみだが、同行した母は、うわ〜ほえ〜と文法を奪われた状態であったので、それでいいのだろう。
橋のたもとから、「犀星のみち」と名付けられた整備道を歩く。
桜は咲き誇っており、犀星のみちも期間限定ライトアップが施されていた。
私としては、なるほどですね〜という雑感を得たのみだが、同行した母は、うわ〜ほえ〜と文法を奪われた状態であった。
良かったね、母ちゃん。
もう帰ろうよ。
平日の夜だったので、私たち親子の他には数組の花見客がいた程度の賑わいであった。
この辺が、田舎町の良いところ。
花見の泥酔客に出くわすほどの賑わいは創出されないのであった。
また来年。でいいです。
日を改めて、花散らしの雨が降った吉日。
石川県立図書館に出向く用事があり、図書館のある小立野近辺で喫茶店を探索。
このエリアでは、『ぼんじん』という非常に洗練された喫茶店を以前訪問した。
『ぼんじん』をさらに南下し、小立野一丁目交差点の手前、抹茶色のビルの一階部に豆球のカーテン、回転灯を頭に載せた電飾看板が現れる。
看板には、五線譜と星が煌めいている。
来ました!
コチラは『カラオケ 喫茶 一丁目』
以前訪れた『和院』に続き、歳だけ無駄に取って、人生経験は浪人生以下の私にとって人生で二番目の「カラオケ喫茶」体験である。
『最後から二番目の恋』
は確かに面白いドラマであるが、『一丁目』が「最後から二番目のカラオケ喫茶」ということになると、もうあと一軒しかカラオケ喫茶に行けなくなってしまうので、少し困る。
少しどころか大いに困るくらいに、「カラオケ喫茶」の魅力、その沼にハマってみたいものである。
という訳で、「一丁目」入店です。
扉を開けると正面から左手に続くカウンターがあり、先客のご婦人が一人。
カウンター内のママさんと目が合う。
「すみません。ひとりですが、いいですか」
「はい、いらっしゃい。カウンターどうぞ」
入口付近のカウンター席に陣取る。
並びに座るご常連風のご婦人とも目が合う。
「こんにちは」
「はい、こんにちは。かなり、雨強いでしょう?」
「ええ、風があるので、横殴りですね」
カラオケ喫茶
で、禁煙ということはよもやないと推察するが、果たして…
「こちら、タバコって…」
「吸う?」
「可能ならば」
「なら、奥座ってくれる?そこは、煙が溜まるんよ。エアコンの下。だから、座るんなら、換気扇に近い席。奥おいでなし」
ではでは、ご常連さんの背中側を通って、カウンター席の最奥へ移動。
灰皿を受け取り、コーヒーをお願いする。
で、着火。無事に「一丁目」は
喫煙可
ママさんが換気扇の引き手を引っ張るが、プロペラファンが作動せず。
「あれ?私、どっか触ったんだわ。なんでかいな」
「ああ、そこ引っかかってるんじゃないですか」
プロペラファンに快調に働いてもらわねば、私の喫煙はままならない。
ちょっぴりママさんの手際をサポートして、無事に回転。
「換気扇回すの久しぶりですか?」
「そうやね、意外とタバコ呑まん人多いよ」
「ママさんも吸われんですか?」
「私も吸うよ。けども、お客さんおったら、外で吸うか、その台所で吸うか」
「すみませんです」
「なんもなんも、いいんよ」
「では、お言葉に甘えまして…」
「あ、でもメンソールやね。メンソールは煙大したことないわ。緑の箱はね、メンソールやから」
早速に、コーヒーを用意してくれるママさん。
ふと、見遣るとコーヒーカップをお湯で温めてくれている!
器を馴染ませる丁寧な仕事ぶり。
お茶請けも付いてきます。
ママさんはこの場所で「一丁目」を開いて20年。
イチゲンにも優しい。


ちなみに「一丁目」のトイレは、店の外。
設備は古いが清潔にされていました。


ご常連さんとママさんの会話を聞いていると、どうやら、集まるはずの面子がお一人来ないよう。
溜まりかねたママさんが遅れている常連さんに電話を。
「こんな嵐なんに、〇〇さん来とるがか?」
「だからもう来とるって!先週、今日来る言っとったがいね。どうせ暇なんやろ?」
「いや、私ぃ今から、大根すってカレイ煮にゃならんのやわ」
「そんなもんすぐ出来ようがー。私がドアの前まで迎え行ってあげるっていいよんに」
以上、スピーカーホンでの臨場感溢れるせめぎ合いを堪能。
遅刻中の常連さんのお宅は、「一丁目」から車で15分ほどらしい。
「私、ちょっと行ってくるから、あなたまだ居るやろ?」
「ええ、じゃ先、会計だけしときましょか?」
「いいがけ?ごめんね」
嵐のように、嵐に向かって車を走らせに店を出るママさん。
水を打ったような静けさの中、残されたご常連さんと私。
テレビからは、『徹子の部屋』に出演している藤田ニコルの声が、静寂の店内に響き渡っている。
「いつも、こうやってお仲間で集まっておられるんですか?」
「そう、家に居ても一人やからね」
「歌われるんですか?」
「私はあんまり歌わんのよ」
待ちぼうけのご婦人は、齢80歳。
大阪で生まれ、戦中、故郷に空襲の噂を聞きつけ、石川県河北郡に疎開。
「そしたら、翌日。大阪大空襲。すんでのところやった」
ご婦人は、身体の不調がいくらかあると。
「腰が悪くって、ようようここまで歩いてくるんよ。あと、目がね、網膜中心欠損?真ん中だけボヤーってするんよ。そうなるとね、歩いとっても宙に浮いてるみたい」
「…なんか、それだけ聞くと楽しそうに聞こえます」
「そう?そんないいもんじゃないんよ」
「そうですよね。すみませんでした」
こういう何気ない会話に、己のデリカシーの無さが露見する。
幾つになっても、失礼千万な人間である。
いつになったら、マトモになれるのだろうか。ごめんなさい。
それでも、袖振り合うも、と思ってくれたのか、穏やかな笑顔で話を続けてくれる。
「一人で家に居るとぉ、目の病気のことばっかり考えてしまって気分が落ちこむから。ここへ来て、友達と話してね。それがないと味気ない毎日。ここへ来ると気が晴れるんよ」
ご友人の中には、先の能登地震で輪島から避難され、小立野に来てからは毎日石川県立図書館で読書し、「一丁目」に寄り、夕方帰るのを日課とされている方もいるそうだ。
これまで、訪れた多くの喫茶店で感じたことだが、ひとつのお店があることで生まれるコミュニティ、その拡がりと深化には驚かされる。
「一丁目」で、喫茶店で、集うことを生活に組みこんでいる人たちがたくさんいるのだ。
「大阪に戻りたいとは思わなかったですか?」
「一度、行ったんよ。だけど、生まれた所には行けなくてね、その時は。身体のこともあるから、無理かも知れないけど、もういっぺん、自分が生まれたところで、大阪の空を見上げてみたい!って思ってる」
やがて、ママさんが遅刻していたお客さんを連れて戻ってきた。
「留守番ご苦労様でした!」
「おかえりなさい。じゃ、また来ますね」
「はい。また、おいでになんまっしね!」
皆さんに別れを告げ、店を出る。
もう少し母親を大事にしようと思いました。ホントに。
あたりが暗くなれば、「一丁目」の看板には火が灯り、ここに集う人たちを引き寄せるだろう。
映えることにオールインしたようなライトアップよりも、暮らしのそばでホッコリと点るいつもの光の方が、きっと誰かの気持ちを癒してくれる。
癒してくれている。
google MAP
所在地
金沢市小立野1ー8
営業時間
10:00〜19:30
定休日
未確認
席数
カウンター x 7
ソファ席
電源
なし
Wi-Fi
なし
SNS
なし
店内BGM
トイレ
小便器
和式
(店外)
喫煙の可否
喫煙可