休業中
とは分かっているのだが、休業中であることを確かめるために店先を覗く、
という事を幾度か続けている喫茶店がある。
「さんさろ」
長期休業中であれば、店内に風を通すこともなく、いつしか生きた廃墟に近づいていく、そんなありさまに成り果てて行く、そんな風情になっていくのを見守る、ことになる。
のだが、コチラの「さんさろ」は、なんとなくずっと息をし続けているように見えていた。
軒先の植栽にも手入れが行き届いている。
店自体は、いくらかくたびれているように見えるが、店の骨格はしっかりと壮健に見える。
しかし、
休業中。
その事実は揺らぎない。
大変失礼ながら、入口扉のガラスを覗き込んで、店内の様子も窺っていたのだが、まったく荒廃とは程遠く、すぐにも営業開始されそうな様子。
先日、2025年4月18日のこと。
そろそろ夕餉の時刻だったか、「さんさろ」の前を通ると、店内に灯りが点っている。
天井部から伸びるペンダントライトの暖色系の光が、カウンターをほのかに照らしている。
「おっ!やってんじゃないすか!」
思わず声が出て、軒先に歩み寄る。
すると、店内からマダムが表に出てくる。
「こんばんは。今やられてますか?」
「いえ、今休ませてもらってるんです」
マダムの背後には、今日も休業中を告げる貼り紙が、いつも見かける貼り紙がある。
「こちら、閉じられる訳ではないんですよね?」
「ええ?」
「閉店されるということではないんですよね?」
「ええ。私がちょっと体を悪くしたので、休んでいるだけなんですよ」
「そうですか!そうでしたら、また伺います」
「はい、ありがとう。また、近くにいらしたら寄ってくださいね。ありがとう」
なんか債権者集会の出席者みたいな詰め方をしてしまって、ごめんなさい。
お元気そうに見えるマダムは、不躾な私にも丁寧に応答してくださり、「ありがとう」と見送ってくれた。
ちょっと、舞い上がってしまいました。
嬉しかったな。
時期は分からないけれど、閉店ではなく休んでいるだけだ、と聞けたこと。
「言質をとった」とか、クソみたいな言い方はしたくないけれど、「さんさろ」の再開を待つ気持ちに光が差した。
お待ちしてます。
「さんさろ」がまた客を招き入れる日を待って、また来ます。
今度は、きっと入りたい。
「さんさろ」