もう無い喫茶店について雑記する際に、店名がわからないというのは大変残念である。
なぜなら、「もう無い」が故に、店名くらいしか手がかりがない場合があり、雑文は雑文にしても、本当に雑な文章になってしまうからである。
それなら、本懐の喫茶店探訪において、細密で濃厚な文字列を連ねているのか?と問われれば、そっちもどうせ雑極まりないのだから、こっちも雑の極地でいいような気もする。いつも雑な癖に偉そうな口聞いてもらいたくないよね。
むしろ、雑を自覚した雑味しか醸し出さない文章は得意中の得意。
だからといって、目的地を定めずに発車した列車は止め方すら分からなくなる。アンストッパブル。
ので、店名をかすかにでも読み取ろうと、めちゃめちゃに目を凝らして看板の余白を眺めていたのだが、すっかり店名はその痕跡すら失っている。
ただ、四角形の上部に型取られた凸部には、胴部にハートマーク、注ぎ口からたち上がった湯気もハートマークを形成するサモワール様のティーポットが描かれており、このイラストをもって、ここにはかつて喫茶店があったと見て大方正解。
このブランク看板を有する「もう無い喫茶店」がある場所は、金沢市内泉野出町。
金沢市総合体育館の斜め向かいにあたる。
近隣には飲食店もポツポツはあるが、概して人通りのある区域とは言い難い。
「人通りがある」
ということを額面通り捉えるならば、金沢市内のほとんどは人通りなどない。
しかし、これまで訪れた喫茶店も、「人通り」のみを観点とすれば、営業継続を訝しまれる店舗がいくつもあった。
どっこい、店内には賑わいが!
という例もある。
喫茶店経営とは、ビッグデータなどから容易に存続可能性を導き出せるものではないのだろう。
住宅街にあって、賑わいを誇る店舗例
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何も分からない、「もう無い」どころか「かつての面影」も薄い。
ので、いつもながらGoogleストリートビューを確認。
2012年10月分のストリートビューでは、店内に照明が灯されていることが見てとれる。
しかし肝心の店名は街路樹に隠れて目視できない。
店舗の外見は現在と変わらないように見える。
そこで、店の左手に付けられた看板なら何らかの文字が読み取れるのではないか、と角度を変えてみると…
「ホームロード」か?
「ロ」と「ド」の間には棒引があったのではないか?
何より注目すべきは、看板右下のグラスのような絵面。
現在も残されたブランク看板にあるティーポットのイラストとタッチが酷似している。
「ロ」と「ド」の間に一文字入れて成立する単語が「ロード」くらいしか思いつかない。
スポーツの試合遠征の際に用いられる
「ホーム=本拠地」
「ロード=遠征・敵地」
をくっつけた店名なのではないか。
お客さんにとって、この場所はロードかも知れない、けれど私たちは誠心誠意ホームの気持ちで接しますよ!という宣言が込められた店名。
そう見ました!
さらに、Gooogleストリートビューを時系列で現在に近付けていく、
看板変わってる。
「ホームロード」からビビッドなトリプルカラーに。
正面から見ると店内が、がらんどうに見えるので、2012年から2017年の間に業態変更が行われたのか。
ただ、違う店になったのだとしても、
まさかの店名ではなく、品名。
「トンカツ」
「タピオカ」
「クレープ」
幅広。
食事もデザートも流行り物も、何でもござれ!の万能感。
三大品目のひとつは、第二次タピオカブームの影響で組み込まれたのだろうか。
いや、もしかのまさかの「トンカツタピオカクレープ」が店名なのかも知れない。
あるいは、まさかのもしかの「クタトレピンーオカプカツ」と横読みさせるパターンかも知れない。タイとかの王宮施設とかにありそうな雰囲気にはなる。
さらに、Gooogleストリートビューを時系列で現在に近付けていく、
「そら豆」
というお店になっている。
「ランチやってます」との近強い幟がはためき、店先の黒板には「鶏そぼろ」「だし巻き定食」「からあげ定食」らのメニューが並ぶ。
近隣には、そう多くはないがオフィスがあり、前述の通り体育館も、いくつか学校もあるのでランチ需要は見込めたのかも知れない。
何より刮目すべきは、壁の看板にあるティーポットである。
飲食店舗として、入れ替わりながらも、ハートを醸すティーポットの表象だけは引き継がれている。
消すには忍びないものが、あのティーポットのイラストには潜在しているのだろうか。
残念ながら、
「ホームロード」から「クタトレピンーオカプカツ」へと継承された柱付きの看板は撤去された。
第三次タピオカブームに乗っていくことを「そら豆」の店主さんは選択しなかったということなのだろう。
さらに、Gooogleストリートビューを時系列で現在に近付けていく、
四年の時を経ても、「そら豆」は健在。
店頭の黒板も健在。
「豚焼肉」「塩こうじポークソテー」「塩さば」いずれも900円とリーズナブルに提供してくれていた。塩と豚が多めだが、そんな日もあるだろう。
日替わりランチを数種作る負担を考慮すると、きっと良いお店だったに違いない。
タピオカにあっては、これまで三回にわたる日本でのブームを記録しているのだが、「塩麹」ブームが爆発したのは2010年頃らしく、2022年にランチメニューに記載されていたとて、「そら豆」さんがブームに乗るタイプの店でないことは、「クタトレピンーオカプカツ」看板を撤去したこと、また時期的にみても明らかである。
なんの確証もないが、気骨を感じさせる。
かなり美味しい料理を振る舞ってくれたのではないか、と想像する。
さらに、Gooogleストリートビューを時系列で現在に近付けていく、
ついに、現在の姿になってしまった。
もう無くなってしまった。
毎日店先を飾っていたであろう黒板はもう出されない。
この場所のアイコンとなった「ハートの湯気を出すティーポット」だけが残され、「そら豆」の文字は消えた。
「あそこって何やっても長続きしないよねー」
みたいなことを私のような消費者は勝手気ままに宣う。
そして、この場所もストリートビューを遡及することで確かめたように、幾度かオーナーが入れ替わっているように見える。
しかし、「そら豆」は少なくとも四年以上私たちのお腹を満たす場所であった。
もっと以前「ホームロード」だって、地域に愛された店舗だったろう。
「クタトレピンーオカプカツ」は、短命だった可能性が高いけど。
ずっと、確認できる限り2012年から2022年まで、この場所はくつろいで美味しいモノをいただける場所だった訳だ。
私は、もう無くなってしまってから、初めて訪れただけだが、なんだか感謝したい気持ちになった。
「ホームロード」も、「クタトレピンーオカプカツ」も、「そら豆」も、もう無い。
ずっとその傍で栄枯を見てきたティーポットのイラストだけが残った。