深夜営業もしくは、終夜営業の喫茶店の持つ魅力は計り知れない。
夜中までやっているバーは敷居が高いし、会計も高い。
夜中までやっている居酒屋は、うるさいし、会計も高くなる。
夜中までやっているファミレスは、うるさいし、輩まみれ。
夜中までやっているコンビニもイートインは夜半には閉じられる。
その点深夜喫茶は、手の届く価格帯で、暗闇に身を沈め、思索に耽り、真夜中の孤独を噛みしめられる。
私が金沢に住んでいた10代後半。
夜中までやってたのは、片町スクランブル交差点にあったミスタードーナツのみ。
竪町商店街入口のマクドナルドもその時刻には閉まっていたし、ファミレスという業態はほとんど無かったはずだ。
夜中と言ってもせいぜい深夜0時までであったが、ミスドは青春の掃き溜めのような場所であった。
当時の私には、夜中までやっている喫茶店というものが視界に入っていなかった。
大人の居場所だと思っていたし、実際きっとそうだったろう。
中坊や高校生には、ファストフード店が関の山だった。
でも、気付いていたら、きっと「オーレ」に足を運んだだろう。
『金沢カフェ100』金沢倶楽部 2004年
には以下のように「コーヒー&レストラン オーレ」が紹介されている。
いつも温かく迎えてくれる懐深い一軒
片町の繁華街で、20年以上にわたって朝から翌早朝まで営業を続ける。
行きたい時にいつでも訪れることができるのが何より嬉しい。
ランチに、待ち合わせに、飲み会にと、多くの人が何度となくここに立ち寄り、思い思いの時間を過ごす。
今度街に出かけたら、『オーレ』のある地下へ潜ってみよう。
営業時間 9:30〜翌4:30
※金・土 9:30〜翌5:30
日曜 10:00〜翌3:30休日 なし
席 100席
紹介文自体は、非常に淡白で内容の薄い情緒的なものだが、特筆すべきはその脅威の営業時間。
深夜というか早朝4:30まで!
そして定休日なし!
加えて、地下に広がる100席の大箱!
参照したガイドブック『金沢カフェ100』の刊行が2004年。
その時点で、「20年以上にわたって」と記されているが、その後いつ閉店されたのかは不明。
常套手段であるgoogleストリートビュー先生も、店舗が地下とあっては通用しない。
「オーレ」はもう無いが、「オーレ」の入っていたエイケンレジャックビルはまだまだ健在。
ホストクラブやラウンジがテナントとなっている雑居ビル。
いやー、これは中坊は来れない。
尻込みオブ尻込み。
「オーレ」があったと思われる地下への階段を進んでみると、
完全にキャバクラであった。
100席を有した地下空間は、今、かつてとは違った形で深夜に花開いている。
「オーレ」で夜を明かして家路に着く粋狂者が、朝の光を感じた風景はきっと今と変わらないだろう。
それは、キャバクラのアフターをキメた酔狂者が昨晩見た景色でもあろう。
すっかり珈琲を飲むというよりは、シャンパンを入れる具合になってしまっており、「オーレ」の面影を望むべくもない。
と、ビル内エレベーター横にあるテナントサインが目に留まる。
3Fにある「パイレーツオブ金沢」が気になってしょうがないところだが、
肝心なのは、BFのところ。
よくよく眺めると……
鏡文字になってはいるが、読める!
喫茶&グリル オーレ
私には読める!
「オーレ」の文字が。
そうか、確かにここには、いつ行っても開いている喫茶店があったのだ。
夜中の腹の虫だけでなく、夜中の孤独も慰めてくれる「オーレ」があった。