大通りから一本裏に回った西町薮ノ内通。
間口の小さい商店が軒を連ねる通り沿いにも、もう無い喫茶店。
「コーヒースナック 峰」
壁に貼り付けられた「スナック」の「S」は剥がれ落ち、入口扉にかかった庇の傷みや退色も進んでいる。
建物の右脇には、勝手口らしき扉もあり、ここから二階に行けたのではないかと思われる。
「峰」の店主は、二階部にお住まいだったのだろうか。
「コーヒー」
と
「スナック」
が並立する屋号から察するに、昼営業では喫茶、夜には呑み屋、という業態だったのだろうか。
「峰」
という店名には、剣ヶ峰。トップオブザトップの意が込められているのだろうか。
ディック・ミネは巨根のトップであったし、峰不二子はグラマラスウーマンのトップだったのだから、「コーヒースナック 峰」も昼も夜も最高のサービスと空間を提供してくれていたのではないか。
想像するしかない。
さっきから、「〜ではないか」みたいな疑問形の連続で、ちょっとツラい。
一番ツラいのは私なので、読んでいる方にはご容赦願いたい。
願いたいのではないか。
そうか。
そうだ。
私が金沢市内の喫茶店界隈を探索するようになってから、参考にさせていただいている『純喫茶とうさぎ』というブログがあり、そちらに「峰」のことが載っていた。
どうやら、2016年4月にお店は閉じられたようである。
もう10年になる。
『純喫茶とうさぎ』さんもブログ内で、
いつか入ろう!と思っていたのに、いつの間にか閉店してしまったお店です。
と書かれているが、
「いつか」
という思惑を捨てなければならない。
時間があったら、とにかく入ってみる。
「いつか」という機会は訪れる事はないと心に刻まねばならない。
そして、
「いつの間にか」
というのも、手前勝手な言い分である。瞬くように時間は過ぎ、「いつの間にか」のその只中に、有限な時は刻まれていくのだ。
と、
完全に『純喫茶とうさぎ』を貶めるような書きぶりに陥ってしまったが、これは己への戒めでもある。
私のようなとっ散らかったブログと異なり、『純喫茶とうさぎ』さんの文章は簡潔に情感を表現されているので、今すぐ、このページを閉じて、『純喫茶とうさぎ』さんのブログを読んでいただきたいと思う。
たまには、私のことも思い出していただきたい、とも思う。
さようなら。
2014年11月のgoogleストリートビューでは、在りし日の「峰」の外観が確認できる。
ガラス部を拡大すると
「日替定食 ピラフ コーヒー付 ¥800」
との文字。
これは、
日替わり定食がピラフで800円
なのか、
日替わり定食とピラフの2種類が800円
なのか、
にわかに判別し難い書きぶりである。
今すぐにでも、扉を開けて詳細を確認したいところだが、当然それは叶わない。
叶わぬ夢を見続けるのも、また人生であろう。
「コーヒースナック 峰」は、もう無い。