金沢 なるべく吸える喫茶店

吸えたら良いけれど吸えない時もあるから飲めたら満足です

もう無い喫茶店「喫茶リンデン」

もう無い喫茶店に、看板がかかっている。

そこにもう喫茶店は無いが、看板はあって、そこには「喫茶」と記されているから、底に喫茶店があったこと。喫茶店があったことだけは分かる。

 

今回発見したのは、
「喫茶 リンデン」

リンデンは菩提樹と訳されるのが一般的で、筆文字のような勢いある筆致の隣には、菩提樹と思しきイラストもあるので、「喫茶 リンデン」の店名の由来は菩提樹で間違いないのだろう。

 

仮に、グリーンの葉っぱが描かれておらず、「リンデン」だけを抜き出せば、マスターが「林田さん」で、彼の愛称が「りんでん」で、故に「喫茶 リンデン」となったのではないか?という説も成り立ちそうで、諸説アリ とかほざいても良さそうで。
加えて、マスターの相貌が「でんでん」に似ていたとか、撮り鉄だった彼が愛したのが「嵐電」だったとか、デンデデデンと諸説アリかも知れない。



ここは彦三町という町で。
かつては、「喫茶 リンデン」の徒歩圏内にFM石川というラジオ局があり、一人称を「僕」として歌う服部祐民子という女性歌手が番組を持っており、私はその番組が生放送で行われていると何故か信じて疑わずに、何度も出待ちしたことがある。
しかし、番組が終了して何時間経っても、服部さんは現れず。
たまたま出てきたスーツ姿の男性に、

「あのう、服部さんはまだおられるのでしょうか?」

と問いかけたら、

「えっ、アレは収録なんで、本人いませんよ」

と聞かされ、大いに落胆していたら、気の毒に思ったのか、わざわざ局内に戻って収録の日程を調べて教えてくれたのだった。

しかし、この日には確実に服部さんがFM石川に居て、また出待ちをすれば持参したCDジャケットにサインでも貰えそうな段になって、途端に私はビビり散らかしてしまい、出待ちを敢行しなかった。

 

仮に服部さんが好意でサインでもしてくれたら、それは一生モノの思い出になっただろう。
しかし、服部さんに会いたいな〜つって、でもその勇気が出ず、自部屋で布団をひっかぶって悶々としていた事は、今でも鮮明に思い出せて。
実行できた喜びよりも、実行しなかった後悔の方がより強い記憶として沈殿するのだと知っている、今は。

 

ところで。「喫茶 リンデン」の立地を見ると、すぐお隣が氷屋。

自前で用意しなくても、いつでも新鮮な氷が手に入るという、喫茶店存続環境としては画期的な立地である。

 

そして、店先には何やら設備品らしきものが置かれており、すわ閉店したてで、処分品が残置されているのか?
と思ったのだが、近付いてよくよく見ると、明らかにオフィス用品に見えた。

ここは、「喫茶 リンデン」であったのであり、「オフィス リンデン」では無かったのだから、ここにオフィス什器があるのは奇妙であるが、その所以を確かめる術もない。

通常回の「もう無い喫茶店」の習いで、googleストリートビューを可能な限り遡ってみたのだが、いずれの日にちもシャッターの閉じた画像ばかりで、喫茶店として息づいていた頃を思わせるものはなかった。

 

しかし、「金沢 喫茶 リンデン」の名でfacebookは残されており、店内写真を見るに居心地の良さそうな喫茶店であったろうことが偲ばれる。

投稿は、美味そうなフードメニューを紹介する2013年のものが最後である。
閉店という暗雲垂れ込めるたぐいの投稿はない。

 

同時に、金沢市内、木越町に「リンデンバーム」という名の喫茶店が存在することもわかった。

「リンデン」は英名で、「リンデンバーム」は独名で、いずれも菩提樹を意味する。

もう無い喫茶店の発見が、いまそこにある喫茶店の発見をもたらしてくれた。
今度、「リンデンバーム」に行ってみよう。

もしかすると、でんでん似で撮り鉄の林田さんという名のマスターが、

「ああ、彦三町から移転したんですよ!」

と快く迎えてくれるかも知れない。

 

行かなかった場所、行けなかった場所。

「喫茶 リンデン」はもう無い
が、
「リンデンバーム」に、これから私は行くことができる。