ずっと行きたいと狙っていた喫茶店だった。
昨年末から、何度か足を運んでいた。
その度、店には人影が無く、しかしながら、閉店や休業を告げる貼り紙も無かった。
いつか入れるだろう、との想いは何度か訪れては閉まっている様子を見るにつけ、心配のような心持ちに変わっていった。
一度も入ったことのない喫茶店なのに。
おかしなものだ。
兼六園を右手に、金沢城址 石川門を左に見ながら進み、兼六園下交差点をさらに奥へ。
両サイドが駐車場で、その中央にぽつねんと屹立する真四角な建物は際立ち、目立っていた。

何度訪れても、入店することは叶わなかったけれど、いつも「今日こそは!」と思いながらやって来ていた。
同時に、なんの貼り紙も無い、ということは閉店するわけではない。
そのことを確認したかった。
ところが、今日は目にしたくなかったモノを見つけてしまった。

これまで、貼り紙が無い、ことを確認してその都度安堵していたのに、ついに決定的な文字列を読むことになった。
勝手に恋焦がれて、一度も話したこともないのに、無惨に恋に破れたような。
会ってもくれなかったなぁ。
しばし呆然。
「閉店することにしました」
という書きぶりも切なさを醸す。
「閉店することにいたしました」
と、堅苦しく来られるよりも、
「閉めることにしたわ」
と呟かれているような。



覗き込んだガラスの奥には、モノクロームな内装が見える。
奥の階段も登ってみたかった。
もう随分営業していなかったんだろうか。
いつ頃来れば、入れたんだろうか。
閉店を報せる貼り紙には、いくつかの書き込みが。


きっと、彼らも「今日は開いてるかも…」と何度も店先まで足を運んだのではなかろうか。
東京在住の頃、池袋駅前にあった「キンカ堂」という手芸店が閉店し、閉じられたシャッターに何枚もの惜別のメッセージが貼られていたのを思い出した。
おかしなものだ。
私には、「珈琲 いしかわ門」の思い出はない。
ただ、入りたいなぁ、と何度か目の前を通り過ぎただけだ。
そんな分際で、悲しいとか寂しいとか…
だけど、この貼り紙を見て、とても切なくなった。
「珈琲 いしかわ門」は、もう無い。




