喉の渇きを癒したいとき、足の疲労が臨海に達したとき、しのつく雨をしのぎたいとき、買ったばかりの文庫本を開きたいとき、そして、紫煙をくゆらすひと時を過ごしたいとき。 路傍に佇む喫茶店の門をくぐる。 なるべくならば、煙草の似合う、そんな店がいい。
<本日のサ店>
チャルダ




ここより下は、当ブログ執筆者の身辺雑記をふんだんに含んだ、取るに足らないとしか言いようのない雑文雑記ですので、お店の基本データのみを知りたい方は、上記目次より各項目をクリックし、あなたが必要とする情報を摂取したのち、早々に離脱することをお勧めします。バイバイ!
100均に造花をしこたま買いに行く案件が勃発したので、武蔵ヶ辻まで出張って、両手いっぱいの花を買う。プラスチックの花を。
「100円で暮らしは楽しくなる。」
あながち間違いではないが、この場合の金子の多寡は、20円でも7億円でも成り立つから、100円ショップの固有性を摘出できてはいない気がする。が、100円のもたらすものが、あくまで「暮らしが楽しく」なる程度の効果であり、「暮らしが華やかに」なったり、「暮らしのレベルが変わったり」はしないということ。100均へ消費者が求める「ある一定の低みがもたらす楽しさ」を訴求しているという点において芯を食っているのかも知れない。
「100円」「暮らし」「楽しい」「となる=become」
のキーワードを並び替えてみれば、
「楽しい暮らしは100円でできる」
「100円でできる楽しい暮らし」
「100円暮らしは楽しい」
「楽な暮らしは100円で」
「楽しい暮らしだと思っていたら、身の回り全部100円ショップで買ったものだった」
といったフレーズも考えつくのだが、どれも「100均で暮らしを整えている貧しい私」にフォーカスし過ぎてしまって、自己肯定感に棹さす具合になってしまうので、
「100円で暮らしは楽しくなる。」
くらいの、下流志向の前向きさ漂うコピーが正解なのだろう。
また、ここではあくまで「100円」の商品を買うことで、「暮らし」が「楽しく」「なる」との受け身を標榜しており、消費者が積極的に「100円」の商品を買い、己の「暮らし」を「楽し」んでやろう!という能動性を失していることにも注目すべきだろう。
「100円で暮らしを楽しくする。」
であれば、100円で買ったのもので、10万円分楽しんでやっぜ!という野心めいたものが滲み、100円ショップを草刈り場にしてやっぜ!という理想が立ち現れる。
しかし、実際には、私が受け入れるのは、
「100円で暮らしは楽しくなる。」
の方である。100円のものを、100円のものなりに、100円のものとして消費し蕩尽する。さもしい生き方である。
100均で一銭でも安く目当ての商品を探す時間と、モールのガシャポンコーナーで新商品を探す時間。この二つは人生において、最大級に無に近い時間なので、この先の人生では、こういったアイドルタイムを喫茶店で茶をしばく時間に変換させていきたいものだ。
「珈琲一杯で暮らしを楽しくする。」
金沢市の都心軸 157号線 通称百万石通りを金沢駅から香林坊片町方面に向かい、近江町市場を過ぎて、左に折れる。
かつては、"金沢の"喫茶店通りとも呼ばれ、サ店が林立していたと、「チャルダ」のマスターが言う筋に面して、その「喫茶 チャルダ」はあります。
入口を入り、右に折れると奥までズドンと店内が広がる。
手前にカウンター席、トイレと電話ボックスを挟んで、奥にテーブル席が連なる。


「ミルクティーお願いします」
「はい。お待ちください」
「あと、灰皿いいですか?」
そう、チャルダは
喫煙可
のちに、マスターに伺ったら、カウンターは禁煙。
ヤニきめるような底辺人は、テーブル席に誘導されるようだ。テーブル席ゾーンと、カウンターの間には、ショーケースのある通路があるので、副流煙が到達することはないと思われる。分煙対策が施されているので、吸わない健全人も使いやすい喫茶店。
底辺人vs健全人。勝利するのは、肺がまっさらの非喫煙健全人に決まっている。
負けを認めながら、自己憐憫のみを抱え、必敗する喫煙者は、底辺人である。


トイレは、和式だがしっかり清掃され、清潔感がある。
ウォシュレットで自分を甘やかしているような人には、少し我慢が必要だろう。



着席したテーブル席ゾーンが、奥まっているからか、携帯の電波の入りがちょっと悪い。
雪が舞う日であったが、石油ストーブの暖風が充分に効果的で、たった一人の喫茶空間に浸る。




会計がてら、マスターに話しかけてみる。
「こういう雪の日は、やっぱり暇ですか?」
「お客さんが来ないときは、来ない。そんなもんですよ」
「こちらは、近江町市場が近いから。インバウンドの人たちも来ますか?」
「たまに。そんなでもないわいね。すぐそばに、近江町のパーキングがあるから、時々ドッと来られることはあるけど」
「そうなんですね」
「けど、金沢の人も雪に弱くなってしまったね。昔は、こんなもんじゃなく降っても平気やったけどね」
確かに今年2025年は、久しぶりに市街にも降雪がある冬となっている。
近江町市場で働く方々がメインの客層かと思えば、そうでもないらしく。
純喫茶という形態の珍しさを面白がって、若い客も多く。マスターが悩み相談を受け付けるなんてこともあるという。
「なんか、喫茶店のマスターって、なんでも知ってる人生の先輩って感じしますもんね」
「別にお客さんの身の上話なんか、探りたくないんやけどね。私は、話しかけられるまで、こっちから話すことはないです」
「確かに、僕もほっておかれて、その分居心地良かったです」
「そうでしょ。こっちからは、何にも聞きません。聞かれたら、応えるけど。私もこんな年やから、若い子らからしたら、話しやすいんかなぁ」
「でも、お元気そうです。おいくつですか?」
「いくつやと思います?」
「70前半です?」
「67」
完全に失敗した。若く見えますね!とか、言っといて失敗。必敗。
「いきなり、スマホに自撮りの棒?つけて、ダーっと店内入ってきてね。youtube撮影する人もおるし。んで、ネットで、なんかネットに勝手に営業時間書いてあるらしいのね。それで、書いてあるのんと違う!って言われて、それウチが書いとるわけじゃない」
そこから、ひとしきりメディアの嘘、みたいな展開に話が進んで、金沢の闇 みたいなディープゾーンに触れてくれたのだが、やはり長く店を営むとさまざまな情報が耳に入ってくるのだろう。
「ほら、最近金沢来る人は『のどぐろ』『のどぐろ』って言うでしょ?あれも、正直高いだけで美味い魚じゃないよね。あれは、錦織圭が広めたんじゃないかな。金沢=のどぐろ、ってのは」
確かに、のどぐろのどぐろ言い出したのは、ここ10年の話。私は、ガキの頃にその名前を聞いたことすらなかった。
「私は、八目の方がずっと美味いと思うけどね。八目なら、のどぐろみたいにバカ高くもないしね」
近江町市場の真横に店を構え、自らも釣りに出かけるというマスターの言う事ならば、ほぼ間違いないだろう。金沢に来たら、のどぐろよりも柳八目を食え。金沢に居たら、どっちもそんなに食わない!
その後も、松任谷由実が来店した話や、ご実家を映画『夢二』の撮影で貸出した時の話などを、興味深く聞く。個人的には、鈴木清順の撮影中の佇まいを聞けて楽しかった。
「若い子はね、ほら撮影するでしょ。店内とか、料理とか。だから、持っていくタイミングが難しいね。邪魔したくないしね」
「あの、電話ボックスも、珍しいですよね」
「そう、あれもね。若い子は珍しいみたいでね。撮影する人が多いから、中に花飾るようにしたんよ」
カウンター内に見える厨房は、古さは感じられるが、清潔感がある。
使いこなれている器具たち。
「前は、兄がいて一緒にやっててね。兄が調理担当。私が飲み物で分けとったんです。兄がいなくなって、もうフードやめようかなぁとも思ったけど。結構、注文してくれる人がいるから。でも、どっちも一人でやるんは、身体がなかなか慣れんくってね。それで、昔の方が美味しかったって言われたら、クソォってもなるしね。今は、評判いいですよ」
なかでも、年季もののトースターで焼かれるピザトーストは人気。
「これね、温度調節もなんも出来んけど。これが一番。これで焼くとなんでも美味しくなる。魔法のトースター」
すっかり、話し込んでしまって、ご迷惑をおかけしました。
でも、100均フラつくのの100倍楽しかったです。
次は、きっとトースト頼みます。
google MAP
所在地
金沢市下堤町20 堤町ビル101
営業時間
10:00~19:00
定休日
なし
席数
カウンター x 6
テーブル大 x 1
テーブル中 x 3
テーブル小 x 1
電源
未確認
Wi-Fi
なし
店内BGM
carole king 『only love is real』
トイレ
和式 x 1
喫煙の可否
喫煙可能