喉の渇きを癒したいとき、足の疲労が臨海に達したとき、しのつく雨をしのぎたいとき、買ったばかりの文庫本を開きたいとき、そして、紫煙をくゆらすひと時を過ごしたいとき。 路傍に佇む喫茶店の門をくぐる。 なるべくならば、煙草の似合う、そんな店がいい。
<本日のサ店>
閼伽


ここより下は、当ブログ執筆者の身辺雑記をふんだんに含んだ、取るに足らないとしか言いようのない雑文雑記ですので、お店の基本データのみを知りたい方は、上記目次より各項目をクリックし、あなたが必要とする情報を摂取したのち、早々に離脱することをお勧めします。バイバイ!
「金沢市民の台所」
と謳われている近江町市場であるが、同じ金沢にあっても郊外住まいの私のような人間にとっては、”観光地のひとつ”。
金沢には、本物のお大臣勢が数多存在するので、そのような高貴な方々が、割高の鮮魚や青果、衣類を買い求める場所との認識。
むしろ、昨今のインバウンド需要で通りを歩く面子が外国人だらけになってからの方が、よい意味で敷居が下がって、雑多なバザール感が増して、足を踏み入れやすくなった。それは、ビザール感の向上と言ってもよいのかもしれない。


90年代初頭に、東京に遊びに行き、上野公園あたりをうろついていたら、見た目中東系の人たちが偽造テレホンカードを売っていて、直感的に「怖っ」と慄いていたら、横に居た缶チューハイ片手のオッチャンが、「日本もいよいよ…」と口火を切り出し、彼らへの呪詛が連なるのかと思いきや、
「おもしろくなってきたな!」
と笑って言い放ったので、私も釣られて笑い、件の中東系の人たちも笑顔になったことを覚えている。
それから、なぜか多国籍な飲み会が始まり、「缶チューハイのオッチャン」は元全共闘だとわかり、「見た目中東系の人」はイラン人でタリクさんだとわかり、「タリク」という名前は、
「夜暗いでしょう?そのあと、太陽昇るでしょう?タリクはそのこと」
タリク=夜明け
だと教えてくれた。
その後、アラブの言葉を勉強していないのは、情けないのだけれど、今も知っている言葉は「タリク」だけだ。
お土産にと、偽造テレカを数枚くれたのだけど、公衆電話に挿入した瞬間に、パトカーがやってくるような気がして、当分使えなかった。
話してみれば、怖いと思っていた人は、楽しく穏やかな人であった。
金沢駅からの道を右に折れ、国道157号に乗ると、右手に近江町市場エムザ口がある。
その隣のビルの二階に「閼伽(あか)」がある。
近江町市場エムザ口をさらに進み、下堤町交差点を左折すれば、通称「金沢喫茶店ストリート(仮)」となり、以前に訪れた
「ハイド・アンド・シーク」
「チャルダ」
のある道となる。
近江町市場は、その市場という特性上そこで働く方々が、朝早くから訪れるための喫茶店が多く存在していたはずだが、現状そう多くはない。
近江町市場エムザ口からすぐに、「閼伽」の看板と店へと続く階段がある。


そして、まもなく
「喫煙できます」
との文字列。
おめでとうございます。(誰が?)
ありがとうございます。(俺が!)
入店前ですが、「閼伽」は
喫煙可


階段を上り、4月の終わりにも関わらず27℃を記録したこの日の陽気もあってか、開け放たれていた入口ドアを抜ける。
右手にマダムがそのなかで腕をふるうカウンター。
左手にテーブル席。
店内奥には、本棚とトイレ。
「こんちは。テーブルでもいいですか?」
「どうぞ」
アイスミルクティーをお願いし、さっそく一服。
ご常連と思しき、カウンターにいた方と、マダムが楽しげに会話している。
「今日、アレやって!金沢が日本で一番暑いんやと」
「27℃や」
「こんな天気良かったらお客さん来ないね(笑)」
「そりゃそうや、中入るげんやさかい。雨の方が入ってくるわいね」
ほどなくやってきたアイスティーにフレッシュをかけ入れて、アイスミルクティーに成長させる、お馴染みのタイプ。
「マンデリン」
「MiMi」
と同様仕様。
先客のご婦人は、近江町市場の飲食店勤務の方のようだ。
「今日も、外国の人でいっぱい!」
「もう、みんな半袖やね」
「そう、私らまだカーデガン着とるけど。ほとんど半袖!」
「それでいいんや」
「で、みんっな箸上手に使うわ!感心する」
いつも思うことだが、日本人は同調圧力に負けっ放しで、周りの大半が衣替えしないと二の腕を出さない。
テメエが暑ければ脱ぐ、寒ければ羽織る。己の肌感に素直に殉じる生き方を選んだ方が気楽に過ごせる。
「衣替え」とかいう社会的慣習に唯々諾々と従うのもおかしな話である。
窓外には、近江町市場を楽しんだ外国からの方たちが、次なる訪問地を思案中。
フードメニューの「ホワイトカレー」が気になるところ。
お一人が帰られても、間をおかず来店が続き、マダムに話しかけられない。
チキン。
ホワイトチキンカレー。
チキンが入っているのかどうかは、わからない。
「じゃこ飯」
も良さそう。
途中、トイレを拝借しつつ本棚を眺めると、『近江町市場三百年史』なる書籍を見つける。


開くと、しっかり「喫茶 閼伽」の文字もある。
「さっき〇〇行ったら肉が細切れ!探さんとないんやもん」
「文句言わんの!バチ当たるぞぉ」
ロマンスグレーを短く整えたマダムは、ぶっきらぼうな受け答えで一見怖そうだが、ご常連ひとりひとりの注文メニューを記憶されているようで、顔を見た瞬間から用意を始める。
客足が落ち着いてきて、カウンター内でタバコに火をつけるマダム。
その横顔もイカしてる。
喫煙者としては、その店の店主にもタバコを吸ってもらって、ツレモク状態になるのはけっこう嬉しい。
会計時に、北里柴三郎を出すとマダムが、
「あら、新札やね」
「なんか、そうですね。旧札にしましょうか(笑)」
「なんも、私別にこだわらんのや。おんなじお金やもん」
あまりにも、何にも話しかけられなかったので、会計の時間を利用して、懸案の解決を図ってみる。
「店の名前の『閼伽』ってどういう意味ですか?」
「仏さんにあげる水のこと。縁起がいいから付けてもらったんや」
「へー、珍しい言葉ですね」
「そう、珍しいわね」
新札をジャリ銭にバラしてもらって、退店。
次はホワイトカレーか、じゃこ飯か。
「また、伺います」
「はい。また、いらしてください。これ、お土産」
と、店名の入ったマッチをいただく。
嬉しい!
階段脇の看板には、
ちょっと見はこわいけれど本当は…こわいかも
との閼伽ジョーク。
偽造テレカを売っていたタリクも、近江町市場を訪れる外国人も、「閼伽」のマダムも、話してみればちっとも怖くない。
google MAP
所在地
金沢市下堤町37
営業時間
9:00〜15:30頃
定休日
日祝
席数
カウンター x 7
テーブル x 2
電源
なし
Wi-Fi
なし
SNS
なし
店内BGM
トイレ
未確認
喫煙の可否
喫煙可