喉の渇きを癒したいとき、足の疲労が臨海に達したとき、しのつく雨をしのぎたいとき、買ったばかりの文庫本を開きたいとき、そして、紫煙をくゆらすひと時を過ごしたいとき。 路傍に佇む喫茶店の門をくぐる。 なるべくならば、煙草の似合う、そんな店がいい。
<本日のサ店>




ここより下は、当ブログ執筆者の身辺雑記をふんだんに含んだ、取るに足らないとしか言いようのない雑文雑記ですので、お店の基本データのみを知りたい方は、上記目次より各項目をクリックし、あなたが必要とする情報を摂取したのち、早々に離脱することをお勧めします。バイバイ!
もう、本当に日々、映画館に行くか、書店に行くか、そして喫茶店に行くか、ぐらいしか楽しみがない。
ただ、逆にいえばそれだけの楽しみがあれば、潤沢な映画の海、豊潤な書籍の沼、それはかき分けてもかき分けても、どれだけ深く潜っても沈んでも、鷲掴みすらできない底なしの世界なのだから、死ぬまでしがみ尽くしきれないのだから、楽しみの果てに到達できない領域でもある。
それに比して、私の3つ目の楽しみ「喫茶店巡り」は、頑張ればなんとか死ぬまでにゴールテープぐらいは目視できそうな趣味。
そして、
ブックカフェ
となれば、「本」と「サ店」の融合。好物のかけ合わせ。
ところが、金沢市には意外とその業態のお店が見つからない。
『石引パブリック』という印刷業務とアート寄りの蔵書に、カフェをプラスしたような書店があり、何度か訪れたが残念ながらブックカフェとしての営業は終了している(印刷会社として同じ場所で健在)
昨年まで、大阪に居たのだが、割に大阪にはブックカフェが多く、
こちらも閉店してしまっているが天王寺の『スタンダードブックストア』は、一階でカフェメニューを注文して、二階の書籍販売スペースをウロチョロできた。
北浜あたりにある『フォークブックストア』は一階でカレーを食って、地下の書店に潜っていける店で、どんな本を買ってもしたたかにスパイスの匂いがこびりついていて、家に持ち帰って本棚に紛れてしまっても、「これは、フォークで買った本」と判別できた。
直歳にブックストアという訳ではないが、中津にある『ぷれこぐ堂』という古書店は、猫が寝ていて、備え付けのポットから自由にお茶を飲ませてくれる場所だった。
↑どうやら、看板猫が亡くなったようだ。ご冥福を
で、
金沢で検索かけると、いの一番に出てくるのが、
「Book&Cafe あうん堂」
ひがし茶屋街近くの住宅街にあり、自宅からユナイテッドシネマ金沢へチャリ漕いで向かう途上にあるんで、この日は朝から映画を観てから、「あうん堂」へ行き、茶しばいて、本買った訳だ。私の楽しみが詰まった一日だった。
命日でも良いくらいだ。
店内に向かうと丁度入れ替わりのお客さんがおり、流れるように店内へ。
マスターの笑顔の向こうには、カウンター内にマダム。
すぐに二階へ伸びる階段、右側に書籍の並ぶ棚が縦横にあり、中央を進むと喫茶空間と調理場、最奥にテラスが見える。
「これ、二階も行けるんですか?」
「行けますよ。でも、自宅です」
テーブル席に鞄を置いて、可愛らしいメニューをめくる。


マダムに、
「ワニさんコーヒーは、無い日もあるけど今日はあります」
と聞かされ、中川ワニコーヒーをお願いする。
写真を撮りつつ、本を見せてもらう。
手前に新刊の棚があり、その脇に回ると細い通路の両側に、上から下まで古本が詰め込まれ洞窟を掘り進む加減でためつすがめつする。
古書店に行くと、必ず一冊は買い求めるようにはしているが、店舗によってはどうしても任意の一冊を発見できないこともあって、往生したりするが、「あうん堂」ではその心配はなさそうだ。


古書店の棚というのは、仕入れの多寡によって無限増殖していき、どうやったって手が届かない棚が生まれたりしているものだ。
東京にいる頃、中野に職場があり、荻窪までの帰り道に高円寺の『十五時の犬』という古本屋にしょっちゅう立ち寄っていたが、『十五時の犬』の書棚はどんどこ天井まで棚板が追加されていくので、「あの本取りたいぞ」つって、実際に手に取るまで自身の垂直跳びを鍛え上げる必要があった。
「あうん堂」の書棚は、ジャンルごとに厳選されているのか、秩序を感じさせる。
「東京駅近くの、丸善丸の内本店にあった松岡正剛がプロデュースした棚作りを見たときに、間違ってない、と。単純な図書館分類的な棚ではなくて、たとえば『食』なら『食』の本を並べるのだけど、そこから派生させていく。思考する棚作り。それを見て、もう私もそういう棚作りをしてたから間違ってないんだ。って」
ここで、「あうん堂」では吸えるのかどうか?
という命題を解決しておきたい。なるべくね。
「20年前のオープン時から禁煙ですね」
というマダムに、
「それぐらい前だと、禁煙への抵抗はなかったですか?」
と聞くと、
「いえ、全然なかった。どうしても吸いたい人は、そこのデッキに出てもらって、携帯灰皿持参でお願いします!って。たまに、どうしても、って人はいますけど、全然禁煙への抵抗っていうのはなかったですね」
店舗の奥に、ガラス戸があり、デッキスペースへ出られる。
ので、どうしても吸いたい人はソコで。
私は、というと「どうしても!」「ゼッタイ!」「ニコチンを!」と主張する気はゼロなので、あくまで「なるべく」な姿勢ですので、今日は吸いません。すいません。
失礼しました。
という訳で、「あうん堂」は
限定的喫煙可
であります。
もう、みんな煙草やめようぜ!
ウソ。
なるべく吸うね。
訪店して割とすぐに、マスターから
「古本屋やりませんか?」
と話しかけられる。
正直、びっくりしました。
「いつか、古書店を」みたいなことを頭の隅に置いてけぼりにしながら、なんとなく生きてきたので、中身の無い頭の中を見透かされたような気がして、驚いた。
中身が薄いから、脳みそが透けて見えたのかもしれない。
「私もう、50ですよ」
「若い若い」
マスターは、現在74歳。
「あうん堂」を始めたのが20年前ならば、まだギリギリ私の年齢の方が若い。
「オープンの20年前から、古本屋は斜陽。それでもやってこれた。私の前の代、50年前ならね、催事で古本市やれば、補充するそばからバカバカ売れて、催事を畳んだその足で温泉場でドンチャン打ち上げしてたらしいです」


それから、頭の片隅にあった古本屋憧れを引っ張り出して、
「車要りますよね?」
「買取難しくないすか?」
など、古本屋ABC的な質問をし、マスターは丁寧に答えてくれた。
「買取で失敗したのは、古いヤマケイ(雑誌 山と渓谷)。市場で大量に仕入れてホックホクだったんだけど、まったく売れなかった… まあ、パチンコで勝つよりも確率低いですよ」
「古本屋やるなら、夜中やりたいですよね」
とトウシロ丸出しの希望を語ると、
「私の実感からすれば、夜中に古本屋に来る金沢の人は、全部で20人」
と教えてくれた。
深夜営業で有名な尾道『弐拾db』の話をすると、『弐拾db』の店主さんはオープン前に「あうん堂」を訪ねてきたそうだ。
「あうん堂」のマスターも、全国各地の個人書店を訪れているそう。
そういう研鑽がな、私には足りない。
今の今まで、20年以上「あうん堂」に来ていなかったのがその証左。
2024年12月には、開店20周年記念に二階堂和美ライブを行い、その際に作ったフライヤーをいただく。
そこには、
「ありがとう二十周年! よろしく二十三周年」
と刻まれており、この「よろしく二十三周年」に素敵な含意があるとのこと。
図々しく尋ねると、マスターはゆっくりと人差し指を唇にあてる。
秘密。
ってこと?
楽しみですな!
ちょっとご迷惑なほど、長居してしまった。
マスターが聞き上手だからだろう。「変人ばかりの古本屋」においては、特異な人なのか。あるいは、もっと踏み込めばきっとマスターも変人なのかも知れない。
今、マスターがハマっているのが
モルック
だそうで、石川県モルック協会のお世話もしているそうだ。
下のモルック解説動画に登場しているのが、マスター。
動画内のマスターはいくらか緊張気味である。
お店行くと、5割り増しで饒舌。
「古本屋やるなら、組合入れてあげるよ」
いやー、本気で考えてみます。
よろしくお願いします。
いろいろ教えてもらったが、マスターの箴言はひとつ。
「古本屋で蔵は立たない」
文庫本を二冊買ってお暇。
浅薄な知識でベラベラと喋りすぎて、過反省。
岸田森の評伝『不死蝶 岸田森』の旧版があったのだが、見送る。
こういう見送りが、古書店では命取り。
次、行っても絶対に無い。
これはもうゼッタイです。
一期一会で、見かけたら即買わねばならない。
それが古本道。
私は、まだまだ甘ちゃんである。
「また、必ず来ますね」
と告げて店を出る。
ご夫婦で見送ってくれた。
20年以上行っていなかったのだから、これからは月イチくらいで訪れねばならない。
ああ、もうすぐひと月経つな。
また、映画を観て、その帰りに「あうん堂」に寄れば、映画+本+喫茶で、その日は間違いなく楽しい一日になるだろう。
google MAP
所在地
金沢市東山3ー11ー8
営業時間
10:30〜19:00
定休日
火 水 木
席数
テーブル x 3
電源
未確認
Wi-Fi
未確認
HP
店内BGM
なし
トイレ
未確認
喫煙の可否
限定的喫煙可
店奥テラスでのみ可